ベル麻痺に対する鍼治療

ベル麻痺、すなわち特発性顔面神経麻痺は、よくみられる顔面神経の障害であり、顔面の片側に筋脱力や麻痺を生じる。麻痺によって、顔面が変形し、目を閉じたりものを食べたりする正常な機能が妨げられる。顔面麻痺は、顔面神経の炎症によって生じると考えられている。

伝統中医学では、顔面麻痺は「斜口(deviated mouth)」と呼ばれ、知られている。古代中国王朝時代から、「風」が顔面麻痺の原因とされていた。「気」とは、人体および内臓や腸、経路、側副の生理学的機能を構成する重要な物質である。気は、生命活動を維持し、人体の抵抗力を反映する。「気」の滞りを突いて、外因性の病原である風邪(ふうじゃ)が侵入する。鍼治療は、伝統中医学の一部を成し、数千年の歴史を有する。鍼治療では、微細な針を皮膚の特定部位に刺入するか、または経穴に他のさまざまな手技を適用し、治癒をめざす。ベル麻痺に対して、鍼治療は有益な効果を多数もたらす可能性がある。本レビューの目的は、ランダム化比較試験および比較臨床試験すべての系統的レビューにより、ベル麻痺に対する針刺入による鍼治療の有効性を検討することであった。参加者計537例を対象とした6試験が組入れ基準に合致した。5試験では鍼治療を用い、残る1試験では鍼治療と薬物の併用を用いていた。本レビューで規定したアウトカムについて報告していた試験はなかった。有害な副作用は、いずれの試験でも報告されなかった。試験デザインまたは報告(ランダム化や割付けの隠蔽化、および盲検化の方法が不明確であるなど)の不備が原因で試験の質が不良であったこと、および試験間に臨床的差異がみられたことから、鍼治療の有効性に関する信頼性の高い結論を導くことはできなかった。質の高い研究の実施がさらに必要である。

著者の結論: 

組み入れた試験の質は、鍼治療の有効性について結論を導くには不十分であった。質の高い研究の実施がさらに必要である。

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背景: 

ベル麻痺、すなわち特発性顔面神経麻痺は、顔面神経の炎症によって生じる急性顔面神経麻痺である。鍼治療は顔面神経麻痺に有用であることが、中国で発表された複数の研究により示唆されている。

目的: 

本レビューの目的は、ベル麻痺の長期罹病の低減および回復の早期化における鍼治療の有効性を検討することであった。

検索戦略: 

Cochrane Neuromuscular Disease Group Trials Specialized Register(2010年5月24日)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL、2010年第2号)、MEDLINE(1966年1月~2010年5月)、EMBASE(1980年1月~2010年5月)、AMED(1985年1月~2010年5月)、LILACS(1982年1月~2010年5月)およびChinese Biomedical Retrieval System(1978年1月~2010年5月)から、「ベル麻痺」および同意語の「特発性顔面神経麻痺」あるいは「顔面神経麻痺」、ならびに「鍼治療」を含む検索用語用い、ランダム化比較試験を検索した。本レビューに関連するランダム化比較試験が掲載されている可能性があると考えた中国の雑誌をハンドサーチした。ランダム化試験の引用文献一覧を調査し、発表済みまたは未発表の追加データを特定するため、著者および本領域の著名な専門家に連絡を取った。

選択基準: 

言語に制限を設けず、ベル麻痺の治療として、針刺入による鍼治療を行ったランダム化比較試験すべてを含めた。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がそれぞれ文献検索により該当する可能性がある論文の同定、データの抽出および各試験の質の評価を行った。不一致はすべて、レビュー執筆者の協議により解決した。

主な結果: 

文献検索およびハンドサーチによって、関連する可能性がある論文49報を同定した。このうち、参加者537名を対象に実施されたランダム化比較試験6試験を組み入れた。本更新では、本系統的レビューの旧版と比較してさらに2試験を同定したものの、真のランダム化比較試験ではなかったため、いずれも除外した。組み入れた6試験のうち、5試験では鍼治療を用いており、残る1試験では鍼治療と薬物を併用して用いていた。本レビューで規定したアウトカムについて報告していた試験はなかった。有害な副作用は、いずれの試験でも報告されなかった。試験デザインまたは報告(ランダム化や割付けの隠蔽化、および盲検化の方法が不明確であるなど)の不備が原因で試験の質が不良であったこと、および試験間に臨床的差異がみられたことから、鍼治療の有効性に関する信頼性の高い結論を導くことはできなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.27]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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