歯科矯正治療後の歯の正しい位置を保つための最適な方法は何か?

要点

- エビデンスの信頼性が低いため、歯の位置を固定(保定)するための最善の方法については、明確な結論を出すことはできない。

- より適切に計画された研究が必要である。少なくとも2年を超える期間における歯の位置の安定性、保定装置(リテーナー)の耐久性、患者の満足度、およびリテーナーによる有害事象(う蝕や歯周病など)の評価をする必要がある。

論点

歯科矯正治療後に、歯の位置が後戻りしてしまうことがある。矯正歯科医は、治療後の歯の位置を保つ(保定する)ために、さまざまな方法を用いて、後戻りを防止する。保定装置(リテーナー)は、通常、ワイヤーや透明なプラスチック等で個人に合わせて製作され、取り外しのできないもの(固定式リテーナー)または取り外しが可能なもの(可撤式リテーナー)に分類される。可撤式リテーナーは、常時または任意の時間での装着が可能である。リテーナーは、歯列全体や歯の周囲、または歯の裏側に装着される。場合により、歯と歯の間を削る処置(歯間削合)や、歯と歯肉をつなぐ線維を切断する処置(歯周靭帯の切離)などの補助的な処置が行われることもある。

何が知りたかったのか?

歯科矯正治療後の歯の位置を保つための最適な方法と、有害事象の有無について調査することを試みた。

何を行ったのか?

歯科矯正治療後に使用した異なる種類のリテーナーを比較し、治療後少なくとも3か月間にわたって効果を検証した研究について検索を行った。研究結果を要約し、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何を見つけたのか?

合計4,377人の成人および小児を対象とした47件の研究が見つかった。ほとんどの研究は、病院、大学、専門医、NHS(英国の国民保険サービス)の診療所、または複数の施設で行われていた。研究のほとんどは、可撤式リテーナーと固定式リテーナー、異なる種類の固定式リテーナーと接着材料、および異なる種類の可撤式リテーナーについて比較したものであった。また、研究期間の大半は1年未満であった。

主な結果

可撤式リテーナーと固定式リテーナーの比較(8件の研究)

透明なプラスチック製の可撤式リテーナー(マウスピースタイプリテーナー)を任意の時間で装着した場合、固定式リテーナーよりも歯が後戻りしやすい可能性があるが、その差は非常に小さく、重要性は低いと思われる。可撤式リテーナーを常時装着した場合、保定効果にリテーナーの種類による差はない可能性がある。マウスピースタイプリテーナーを任意の時間で装着した場合、固定式リテーナーより、リテーナー自体の問題の発生は少ないものの、常時装着した場合、問題の発生が多くなる可能性がある。また、固定式リテーナーよりマウスピースタイプリテーナーを使用した方が歯肉の健康状態が良いという結果が認められたが、う蝕の発生には差が見られなかった。

固定式リテーナーの種類および接着材料の違い(21件の研究)

CAD/CAM(コンピュータ支援設計/コンピュータ支援製造)で作製されたニッケルチタン合金の固定式リテーナーと、従来のマルチストランドワイヤー(金属のより線)の固定式リテーナーを比較した場合、保定効果、歯肉の健康状態、および耐久性には差がない可能性がある。

繊維強化複合材料のリテーナーはマルチストランドワイヤーのリテーナーと比較して目立ちにくいので、より高い見た目の満足感が得られる。保定効果においては、わずかに優れている可能性があるが、その差は非常に小さく、重要ではない可能性がある。また、マルチストランドワイヤーのリテーナーに比べて早期に問題が発生しやすく、歯肉の問題をより起こしやすい可能性がある。

可撤式リテーナーの種類による違い(16件の研究)

ホーレータイプリテーナーとマウスピースタイプリテーナーの保定効果は、常時装着した場合においても任意の時間のみ装着した場合においても同様である可能性がある。マウスピースタイプリテーナーは、ホーレータイプリテーナーに比べ、患者の満足度は高いかもしれないが、耐久性が低い可能性がある。

エビデンスの限界は何か?

本レビューに含まれた研究はいずれも小規模であり、最適な試験方法が用いられていなかったため、エビデンスに対する信頼性は低い。本レビューで調査対象となった項目のうち、複数の調査が行われていた研究はほとんどなかった。そして、大半は治療後1年未満の期間で評価が行われていた。また、参加者の年齢や、身体が発育途中にあるかどうか、矯正治療前の歯の状態、あるいは抜歯などの他の治療を受けたかどうかによって研究結果が受ける影響については不明であった。

本エビデンスはいつのものか?

2022年4月27日時点におけるエビデンスである。本レビューは、2004年に発表され、2016年に改定されたレビューの更新版である。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、堺琴美 翻訳[2023.10.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002283.pub5》

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