新生児のオピオイド離脱に対するオピオイド治療

レビューの論点

オピオイドからの離脱による新生児禁断症候群(NAS)の治療において、オピオイドを使用することの有効性および安全性を、鎮静剤(オピオイドを使用しない)対照群または薬を使用しない対照群と比較して明らかにする。

背景

妊婦がオピオイド(処方薬または違法薬物)を使用すると、新生児が禁断症状を起こすことがあり、新生児禁断症候群(NAS)と総称されている。これらの禁断症状は、母子関係の崩壊、睡眠・摂食障害、体重減少、てんかん発作などをもたらすことがある。新生児のNASを改善し、合併症を軽減するための治療法としては、おしゃぶりなどの支持的治療、おくるみ(スワドリング:一枚の布を使い、手足が体に密着するようにくるむ方法)、少量頻回授乳、スリング(抱っこひもの一種)などを用いたスキンシップ、オピオイドや鎮静剤どちらかまたは、その両方の処方などがある。

研究の特徴

本コクランレビューのエビデンスは、2020年9月現在のものである。

主な結果

妊娠中に母親がオピオイドを使用した結果、禁断症状を呈した新生児1,110人を対象とした16件の研究を対象とした。16件の研究のうち11件は米国で行われたものである。オーストラリア、ドイツ、イラン、スコットランド、スイスでそれぞれ1件の研究が行われた。信頼できる結果をもたらす可能性が高い(バイアスのリスクが低い)7件の研究を検討した。すべての研究は比較的小規模で、そのほとんどがオピオイドだけでなく他の依存性薬物を使用している母親の新生児を対象としていた。含まれる研究で新生児の治療に使用された製剤の中には、新生児に対する安全性に関する規制ガイダンスを満たさないものがある。

NASの治療において、非薬理学的介入と薬理学的薬剤(オピオイドや鎮静剤など)の併用と比較して、非薬理学的介入単独の有効性と安全性を判断するエビデンスは不十分である。支持療法にオピオイド(モルヒネ)を追加した場合、支持療法のみと比較して、入院期間と治療期間が増加したが、出生体重を回復させる日数と1日の支持療法の時間が短縮されたと報告した研究が1件ある。

6件の研究から、オピオイドの使用は、鎮静剤であるフェノバルビタールやジアゼパムの使用と比較して、治療失敗率を減少させる可能性があることが明らかになった。治療失敗とは、症状のコントロールに失敗したことを意味し、NASの標準化スコアを臨床的に意味のあるレベルから臨床的に「安全」なレベルまで下げることができなかったと定義される。さらに、これら6件の試験から得られたエビデンスによると、オピオイドの使用は、鎮静剤のフェノバルビタールやジアゼパムの使用と比較して、入院期間や治療期間にほとんど影響を及ぼさない可能性があることが示された。使用したオピオイドの種類(モルヒネ、メサドン、ブプレノルフィン)による治療失敗の差はほとんどなかった。しかし、オピオイドであるブプレノルフィンを使用すると、モルヒネに比べて入院期間や治療期間が短縮されると思われる。鎮静剤であるクロニジンの有効性と安全性を判断するには十分なエビデンスがない。

現在進行中の研究6件と分類待ちの研究4件を確認したが、その結果はこのレビューには含まれていない。

エビデンスの確実性

報告された結果(評価項目)の大部分について、エビデンスの確実性は低度か非常に低度である。鎮静剤であるフェノバルビタールやクロルプロマジンの使用と比較して、オピオイドの使用により治療失敗が減少することは中等度の確実性を示す。ブプレノルフィンの舌下投与は、モルヒネ投与に比べ、治療期間および入院期間を短縮することは中等度の確実性を示す。

訳注: 

《実施組織》小林絵里子 阪野正大 翻訳[2022.05.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002059.pub4》

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