要点
- ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬(GnRHa)のロング法とショート法を比べた場合、生児出産率や継続妊娠率はほとんど差はなかった。臨床的妊娠率(超音波検査で、胎児が見えたり胎児の心拍が聞こえたりする)は、ロング法の方が高いかもしれない。
- ショート法におけるGnRHaの投与量を100μgと25μgで比較した結果、100μg投与の方が臨床妊娠率が改善するかもしれないと示された以外、他の研究での比較において生児出生率と臨床妊娠率に差があるかどうかは分からない。
- さまざまな治療法の費用対効果や受容性を比較するためには、もっと研究が必要である。
知りたかったこと
ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬(GnRHa)は、卵巣を刺激するホルモン注射とともに投与して、計画どおり外科的に卵子を採取(採卵)するよりも前に、卵子が放出されてしまう(排卵)のを防ごうとするものである。GnRHaは、妊娠率を改善することが示されている。GnRHaを投与する方法は、文献にたくさん記載されている。流産や卵巣過剰刺激症候群(OHSS:不妊治療による望ましくない影響)のリスクを減らすだけでなく、生まれてくる赤ちゃんの数や継続的な妊娠率を増やすために、GnRHaを投与する最も効果的な方法を見つけたかった。
実施したこと
生殖補助医療による妊娠を希望する女性に対して、卵巣を刺激するホルモンと一緒にどのGnRHaを投与するのが最もよいのか、エビデンスを検討した。
わかったこと
4,148人の女性を対象とした、不妊治療におけるGnRHaのさまざまな使用方法を比較した40件の研究を見つけた。これらの研究のうち、19件(1,582人の女性)は、ロング法(GnRHaをホルモン刺激の少なくとも2週間前に開始する)とショート法(GnRHaをホルモン刺激と同時に開始する)を比較していた。
主な結果
GnRHaのロング法とショート法を比較した場合、生児出生率と妊娠継続率については、群間でほとんど差がなかった。この結果は、ショート法で14%の女性が生児出産または妊娠継続を達成したとすると、ロング法で達成する女性は12~30%であることを示唆している。ロング法は、ショート法と比較して、臨床的妊娠率(超音波検査で、胎児が見えたり胎児の心拍が聞こえたりする)が高くなるかもしれない。この結果は、ショート法で16%の女性が臨床的妊娠を達成したとすると、ロング法で達成する女性は17~32%であることが示唆している。
その他のGnRHa治療法の比較では、ショート法におけるGnRHaの投与量を100μgと25μgで比較した結果、100μg投与の方が臨床的妊娠率が改善する可能性が示された以外は、児出生率や臨床的妊娠率に差があるかどうは分からなかった。
OHSSの発生率と流産率に差があるかどうかは分からなかった。
その他の有害な影響については、結論を出すには十分なエビデンスがなかった。異なる治療法の費用対効果や受容性を調べるためには、もっと研究が必要である。
エビデンスの限界
エビデンスの確実性は低いか、非常に低い。その主な限界は、半数の研究で生児出産または妊娠継続が報告されていないこと、研究方法の報告が不十分であること、所見が不明確であること、OHSSなどの望ましくない影響について報告している研究が非常に少ないこと、その他の有害事象、費用対効果、治療の受容性に関するデータが不足していることであった。対象となった40件の研究のうち、過去10年以内に実施されたものは8件しかなかった。
本レビューの更新状況
エビデンスは、2022年12月現在のものである。
《実施組織》杉山伸子、内藤未帆 翻訳[2025.06.11]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006919.pub5》