要点
- ランダム化比較試験(RCT)の効果推定値と観察研究の効果推定値には、平均してごくわずかしか差がない。効果推定値とは、臨床試験や研究で検討した2つのグループの結果の差という点で、介入効果の大きさを表す統計的構成要素である。
- さらに多くの研究によって、さまざまな種類の研究の間にみられる効果推定値の類似性や差に影響を与える可能性のある要因を注意深く検討する必要がある。
RCTと観察研究とはどのようなもので、なぜその効果推定値が異なる可能性があるのか
ランダム化比較試験(RCT)とは、参加者を2つ(またはそれ以上)の治療群のいずれかに無作為に割り付ける医療実験の一種である。一方のグループには実験的治療(「介入」とも呼ばれる)が行われ、もう一方のグループは介入を行わない「対照」グループである。RCTは、理想的な条件下で実験的治療にどの程度の効果があるのか、また安全なのかを検証するものである。
観察研究は、実験的ではない「実際の現場(リアルワールド)」で介入の有効性を測定しようとするものである。観察研究のなかでもよくみられるのが、症例対照研究(または後ろ向き研究)とコホート研究の2種類である。症例対照研究では、特定の疾患や疾病がある人と、そうでない人のグループを比較する。コホート研究は、共通の特徴がある人のグループを長期にわたって追跡し、そのうちの何人がある健康上の結果に到達したかを検討するものである。
同じ研究課題を扱ったRCTと観察研究の結果が異なる場合もある。両者の研究は、実施方法と系統的エラーの起こりやすさが異なる。
知りたかったこと
研究の種類(RCTと観察研究)が要約効果推定値に与える影響を評価し、その差が説明される可能性がある方法論的側面を評価したかった。
実施したこと
健康に関する同じ研究課題を扱ったRCTと観察研究で報告された効果推定値を系統的に比較したレビューをデータベースから検索した。発表された言語に制限を設けず、あらゆる医療の結果を含むレビューを探した。1990年1月1日から2022年5月12日までに発表されたレビュー/オーバービューを検索した。そのあとレビューの結果を比較して、エビデンスをまとめた。レビューに用いられた方法やその規模、レビュー間の結果の一貫性などの要因に基づいて、このエビデンスに対する信頼性を評価した。
わかったこと
関連する47件のレビューを特定し、34件のデータが主な解析に寄与した。対象としたレビューでは、RCTの効果推定値をコホート研究、症例対照研究、またはその両方の効果と比較しており、健康に関するさまざまなトピックが取り上げられていた。レビューは世界各国で実施されていたが、ほとんどが米国であった。12件のレビューでは、レビューの資金源に関する情報は報告されていなかった。8件のレビューが、著者らは資金提供を受けていないと報告している。23件のレビューには、著者らは政府からの資金提供、大学や財団からの資金提供など公的資金を受けたと報告されていた。2件のレビューが欧州連合(EU)の資金援助を受けており、2件のレビューが産業界の資金援助を受けたと報告している。資金提供を受けたレビューのほとんどが、複数の資金源を報告していた。
主な結果
- RCTと観察研究の効果推定値は、ほとんど差がないか、まったく差がないことがわかった。
- (手術や理学療法などの他の医療処置とは対照的に)薬物のみを調査した研究の効果推定値を比較すると、わずかな差があるかもしれない。
また、以下のデータに基づいて推定された効果も、ほとんど差がないことがわかった:
- 統計的にかなりの異質性(異なる研究で評価された介入効果のばらつき)を示した、RCTと観察研究を混ぜたメタアナリシス、
- 介入の有効性に影響を及ぼしうる集団の特徴を考慮する方法(傾向スコアによる調整)を用いていないか、その方法が不明確であった観察研究、
- 研究デザインについて十分な情報を提供しなかった観察研究。
エビデンスの限界
エビデンスの信頼性は低い。というのも、対象としたレビューには、その実施方法による系統的エラーのリスクがある可能性があるためである。さらに、レビューの対象となった人や介入の種類も異なっていたため、レビュー間の個々の結果はかなり異なっていた。
本レビューの更新状況
エビデンスは2022年5月までのものである。
《実施組織》 阪野正大、ギボンズ京子 翻訳[2025.12.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《MR000034.pub3》