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産後出血を予防、発見、治療するための、世界保健機関(WHO)の勧告を実現させるにはどんな対策が優れているか?

主なメッセージ

  • 複数の対策を組み合わせると、世界保健機関(WHO)の産後出血(PPH)を予防するための勧告により従えるようになる可能性があるが、集中治療室(ICU)への入院、追加の手術が必要になる数、または妊産婦の死亡数には恐らく差はない。複数の対策を組み合わせることが、出血量や輸血の有無に影響するかどうかはわからない。

  • 一つだけの対策では、WHOのPPH予防のための勧告が守られるかどうか、出血量、または輸血の有無に影響するかどうかはわからない。一つだけの対策では、妊産婦の死亡数には差がなく、ICUへの入院が増えるかもしれない。一方、追加の手術を必要とする数が減る可能性がある。

  • 研究の件数が少なく、解析した研究の間で収集されたデータに差があるなどの限界があって、有効な対策について結論を出すことができなかった。しかし、同一の対策が、異なる研究で程度の違いこそあれ成功を収めており、今後この領域での研究を行う必要性が非常に高い。

産後出血(PPH)とは何か?

産後出血(PPH)とは、通常、出産後24時間以内に500mlを超える出血があること、と定義される。

PPHはどのようにして予防、診断、治療されているか?

WHOのガイドラインは、PPHを予防するために、出産直後にオキシトシン(子宮を収縮させる薬剤)を投与するよう推奨している。一部の分娩施設では、血液回収シートとはかりを使って出血量を計測している。しかし、こうした対応ができない施設が多い。PPHの治療は、その重症度、原因、利用できる手段によってさまざまである。多くの場合、PPHは子宮を収縮させる薬剤によって治療する。この薬が効かない女性に対しては、子宮内バルーンタンポナーデ法(子宮内でバルーンを拡張して血管を圧迫し、止血する)か、外科手術が必要となる。

実現のための対策とはどんなものか?

実現のための対策は、臨床における実践や計画が受け入れられ、採用され、定着されることを促すために用いる特定の手法である。その例としては、個々の医療従事者と指導者を関与させる、インフラを刷新する、出産に立ち会う者(助産師など)を訓練、教育、支援するなどがある。

実現のための対策は、PPHを予防、診断、治療するために、どのように用いられているか?

臨床診療では、PPHを予防、診断、治療するために、幅広い対策が用いられてきた。対策には、エビデンスに基づいて助産師を訓練・教育する、分娩施設に新しい設備を導入する、診療録を監査し、医療従事者へフィードバックを提供するための報告制度を整備する、などが含まれる。

何を調べようとしたか?

分娩施設での出産で、WHOのPPH勧告を実現するための対策がある場合、どれが有効であるか知りたかった。

何を行ったか?

医療施設で出産した人に対して、出産に立ち会った者が行ったWHOのPPH勧告を実現するための対策の効果を調べた研究を探した。研究の結果をまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。

わかったこと

レビューの対象となった研究は13件あり、行われた対策によって次の3つのグループに分類された。(1)一つだけの対策と通常の処置、(2)複数の対策の組み合わせと通常の処置、そして(3)複数の対策の組み合わせと通常の処置を強化したものの比較。

一つだけの対策では、WHOのPPH予防のための勧告が守られるかどうか、出血量、または輸血の有無に影響するかどうかはわからない。また、妊産婦の死亡数には差がないかもしれず、追加の手術が必要となる数が減少する半面、ICU入室が増加する可能性がある。

複数の対策の組み合わせでは、PPH予防のための勧告はより守られるようになるかもしれないが、恐らくICU入室、追加の手術の必要性、妊産婦の死亡数には差がない。複数の対策を組み合わせることが、出血量や輸血の有無に影響するかどうかはわからない。

実現のための対策や研究の手法が同じでも、場合によって、WHOのガイドラインがより守られるようになることもあれば、変わらなかったり、むしろ守られなくなったりすることもあった。

多くの研究で、実施のための努力とWHOの勧告が守られているかどうかや患者のアウトカムとを結びつける包括的な枠組みを欠いていた。複数の対策の組み合わせによって、PPHに関連する病気や死亡につながるすべての要因に対応できるとは思われない。また、複数の対策を組み合わせることが実際の現場で適用可能か、まだわからない。

エビデンスの限界は何か?

実現するための対策の詳細さが異なり、研究を統合することができなかった。研究に含められた人や、施設の規模、分娩件数、分娩方法にも、違いがあった。 研究の背景状況もさまざまで、実現のための対策がアウトカムに与えた真の影響を測るのは困難だった。

本レビューの更新状況

エビデンスは2024年4月25日現在のものである。

訳注

《実施組織》橋本早苗 翻訳、杉山伸子 監訳[2025.4.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD016223》

Citation
Semrau K, Litman E, Molina RL, Marx Delaney M, Choi L, Robertson L, Noel-Storr AH, Guise JM. Implementation strategies for WHO guidelines to prevent, detect, and treat postpartum hemorrhage. Cochrane Database of Systematic Reviews 2025, Issue 2. Art. No.: CD016223. DOI: 10.1002/14651858.CD016223.