高齢者の転倒や転倒に関連した怪我の予防に、集団ベースの介入(個人ではなく地域社会全体を対象とした介入)は有用か?

要点 :

- 地域社会全体を対象とした転倒予防のアプローチが、転倒や転倒に関連する怪我を減らすかどうかはわからない。

- 今後の研究は、十分に計画され、介入について最新の記述法を用いるべきである。理想的には、研究では2つの地域社会を比較するだけではなく、複数の地域社会で実施されるべきである。また、対象とする地域社会は大きな集団から構成され、それぞれの地域社会に住む高齢者のタイプは研究が行われた国を代表するものであるべきである。

なぜ転倒予防に努めることが重要なのか?

高齢者の転倒は非常に多い。毎年、65歳以上の高齢者の約3分の1が転倒しており、高齢者の中には年に数回転倒する人もいる。高齢者の転倒は非常に深刻で、骨折や入院治療につながることもある。転倒によっては生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼし、回復まで長期間かかる可能性もある。高齢者の転倒は、骨折の手術など入院治療が必要な場合もあり、医療サービスにも多額の費用がかかる。転倒を予防する方法を見つけることは、高齢者に利益をもたらすだけでなく、転倒による医療サービスへの負荷を減らすことにもなる。

転倒予防のための集団ベースのアプローチとは?

高齢者の転倒を予防するためのアプローチは、通常、転倒のリスクが高い人を対象としている。リスクが高い人は、すでに少なくとも1回転倒しているか、転倒のリスクを高める他の症状(歩行や移動、バランスに問題があるなど)を持っている可能性がある。集団ベースのアプローチは、個人ではなく地域社会全体を対象としている点が異なる。集団ベースの転倒予防アプローチの例には、次のようなものがある。筋力やバランス力を鍛えるような運動のメリットについて、一般の人に知らせることを目的とした公衆衛生的な取り組み、すべての高齢者を対象にした、転倒リスクの特定と低減を支援するための自宅訪問、あるいは、地方自治体による公共の歩道や照明の改善など。

知りたかったこと

高齢者の転倒や転倒に関連した怪我を予防するために、集団ベースのアプローチがどれほど効果的であるかを調べたいと考えた。

実施したこと

地域社会全体で転倒予防アプローチ(集団ベースのアプローチ)を行った地域社会と介入を受けなかった地域社会とを比較して、転倒および転倒関連傷害を調査した研究を検索した。これらの研究結果を比較・要約し、研究方法や規模などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。

わかったこと

その結果、8か国の地域社会から60歳以上の参加者を対象とした9件の研究が見つかった。研究の対象となった地域社会の規模はさまざまである。ほとんどの研究は、調査地域に住む高齢者の数を報告しており、その数は1,200人から137,000人近くであった。他の研究では、調査地域の全人口数のみを報告しており、その範囲は67,300人から172,500人であった。研究期間は14か月から8年であった。概して、運動、教育、家庭内での転倒の危険性の軽減(手すりや滑り止めマットの追加など)、地域社会での転倒の危険性の軽減(舗道や街灯の改善)など、複数の要素を含むアプローチが行われていた。また、1件の研究では、カルシウムとビタミンDのサプリメントを毎日無料で提供することの利益を調べた。

主な結果

地域の高齢者全員にカルシウムやビタミンDのサプリメントを提供することで、転倒で入院治療を必要とする人の数が減少するかどうかはわからない。

また、複数の構成要素を持つ集団ベースのアプローチが、転倒の件数や1回以上転倒した人の数を減らすかどうかも不明である。また、これらのアプローチが、転倒によって骨折をした人の数に差をもたらすのか、転倒に関連した怪我や入院をした人の数を減らすことができるのかどうかについても不明である。さらに、これらのアプローチが医療サービスのコストの削減をもたらしたかどうかに関しても不明である。

エビデンスの限界

いくつかの研究では、転倒予防のアプローチを受ける地域社会が無作為に選ばれていないため、エビデンスに確信が持てない。集団ベースの研究では、対象となる集団を無作為に選べないことは一般的ではあるが、地域によって差があれば結果に影響を与える可能性がある。研究がきちんと実施されたかどうかを判断するのに十分な情報が得られなかった。さらに、研究によって結果が異なることも多く、その理由を特定することができなかった。

本レビューの更新状況

2023年1月時点におけるエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2024.08.22]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013789.pub2》

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