要点
- う蝕の予防や治療において、フッ化ジアンミン銀(SDF)の使用が、治療を行わなかった場合よりも優れているかどうかは不明である。
- う蝕の予防や治療において、SDFが他の方法よりも優れているかどうかは不明である。
‐ 新たな研究により、SDFの有害事象、SDFによる歯の着色が問題となるかどうか、および最善の治療方法について解明できる可能性がある。
う蝕(むし歯)とは何か?
う蝕(むし歯)は、口の中の細菌が食べ物の糖分を分解して酸を作り出し、歯の表面のエナメル質を侵食することで起こる。その結果、歯に窪みや穴が生じる。う蝕は乳歯の歯冠部(歯肉より上の部分)、および永久歯の歯冠部と歯根部に影響を与える。予防や治療を行わない場合、歯痛や感染症を起こしたり、あるいは歯を失う可能性もある。
う蝕の予防または治療方法には何があるのか?
う蝕の予防または治療方法には、細菌の侵襲から歯を守るために、液体やジェル状の薬剤を歯に塗布したり、シーラントを用いる方法がある。また、大きなう蝕の場合には充塡材を用いて治療することもある。フッ化ジアンミン銀(SDF)は安価な液状の薬剤であり、歯科医師や他の医療従事者によって歯に塗布することができ、特別な健康上の配慮が必要な患者を含め、あらゆる年齢層の患者に適用可能である。しかし、SDFは処理した歯の表面を永久的に黒色または暗褐色に着色してしまう可能性がある。
何を調べようとしたのか?
以下の点について明らかにすることを試みた。
‐ SDFは、新たなう蝕の発生の予防、既存のう蝕の活動の停止、およびう蝕の進行の防止のいずれにおいても、治療を行わなかった場合または他の治療を行った場合よりも優れているかどうか。
‐ SDFの塗布回数、溶液の濃度、および塗布期間の違いによる利点があるかどうか。
- SDFが有害事象や歯痛を引き起こすかどうか、あるいは着色による不満を生じるかどうか。
何を行ったのか?
SDFについて、治療を行わなかった場合、プラセボ(偽の治療)、他の治療を行った場合、または異なるSDFの適用方法を用いた場合とを比較した研究について検索を行った。研究結果を比較、要約し、研究方法や研究規模などの要素に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。研究結果を比較して要約し、研究方法や研究規模などに基づきエビデンスに対する信頼性を評価した。
何が見つかったのか?
合計12,020人の小児と1,016人の成人を対象とした29件の研究が見つかった。
主な結果
治療を行わなかった場合またはプラセボと比較して、SDFによって乳歯や永久歯の歯冠表面における新たなう蝕の発生を予防できるかどうかは不明であるが、永久歯の歯根表面の新たなう蝕の発生を予防できる確率が高い。また、乳歯の既存のう蝕の活動を完全に停止させることができる可能性がある。しかし、永久歯の歯冠表面や歯根表面における既存のう蝕の活動を完全に止めることができるかどうか、どのような種類の歯においても既存のう蝕の進行を防ぐことができるかどうか、有害事象のリスクが高まるかどうか、着色による見た目に不満を持つかどうかについては不明である。
見つかった研究において、さまざまな治療方法の組み合わせ(SDFの塗布回数と頻度、溶液の濃度、治療期間)が用いられていた。しかし、う蝕の進行や新たなう蝕の発生、有害事象、および着色による見た目の悪化を防止する上で、他の治療法よりも優れた特定の治療法があるかどうかは不明である。
SDFとフッ化物塗布とを比較した場合、乳歯の新たなう蝕発生の予防において、どちらが優れているとは言えない。また、永久歯の歯冠および歯根表面への効果については不明である。また、どちらの治療法が乳歯の既存のう蝕の活動の停止、あるいは新たなう蝕の発生の予防に優れているか、有害事象、歯痛、および着色による見た目の不満などに違いがあるかについても不明である。
SDFとシーラントとを比較した場合、永久歯の歯冠面における新たなう蝕の発生の予防、および有害事象において治療法間に違いがあるかどうかは不明である。
SDFと充塡材(グラスアイオノマーセメント)による充塡(手用器具のみを使ってう蝕を除去する方法による)とを比較した場合、乳歯の既存のう蝕の活動の停止、有害事象、歯の痛み、および着色による見た目の不満について、治療法間で差があったかどうかは不明である。
エビデンスの限界は何か?
以下の理由により、エビデンスには非常に不明確な点が多かった。
- SDFには歯を着色する作用がある。そのため、研究に参加した全員が、誰がどのような治療を受けたかを把握していたと思われ、これが普段の歯磨きの習慣に影響を与えた可能性がある。またほとんどの研究において、既存のう蝕や新たに生じたう蝕について検査を行った者も、この情報を把握していたと思われる。
- SDFに対するさまざまな研究アプローチを比較したところ、違いが大き過ぎたために比較することができなかった。
- 合計29件の研究が見つかったが、ほとんどのエビデンスは非常に小規模な個別(または少数)の研究によるものであった。
本エビデンスはいつのものか?
2023年6月時点におけるエビデンスである。
《実施組織》小泉悠、小林絵里子 翻訳[2024.12.3]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012718.pub2》