乳房温存術後の女性に対する腫瘍床ブースト照射

論点

乳癌は、世界中の女性に最も多いがんである。主な治療戦略としては、乳房温存療法または乳房切除術の2つがある。再発リスクの低減さらに生存率改善のための標準治療としては乳房温存術後の補助放射線療法(電離放射線による治療)がある。補助放射線療法では、主に4〜5週間の全乳房放射線照射に引き続き、腫瘍床(もともと腫瘍があった部位)に対して追加照射(ブースト照射)が行われる。これは、乳癌の場合、癌の摘出部位に再発がみられる傾向があるためである。乳房を維持したまま乳癌を抑制することとは別に、乳房温存療法においては満足のいく見た目(整容性)が重要となる。

重要である理由

腫瘍床に対するブースト照射の適応ガイドラインは、明確でないことが多い。全乳房照射後にすべての女性に対して腫瘍床へのブースト照射を行うことは技術的には可能であるが、その必要性や効果よりも悪影響をもたらす可能性についてははっきりしないままである。腫瘍床へのブースト照射を追加することによって、治療費の増加および治療時間の延長はもちろん、整容性も低下する可能性がある。

本レビューの論点は、全乳房照射および乳房温存術後に腫瘍床へのブースト照射を実施しなくても、実施した場合と同様の結果が得られるかどうかであった。腫瘍床へのブースト照射を省略しても、ブースト照射した場合と同程度に癌を抑制できる必要があるだろう。また、腫瘍床へのブースト照射を省略することで、ブースト照射した場合と比べて副作用が軽減されることも重要と考えられる。

本レビューでは、合計8,325例の女性が含まれた試験5件を特定した。このエビデンスは、2017年3月1日現在のものである。腫瘍床へのブースト照射を行った場合では、行わない場合と比べ局所再発は少なかった(低い質のエビデンス)。腫瘍床へのブースト照射実施の有無によって無病生存期間あるいは全生存期間に違いがあるというエビデンスはなかった(それぞれ低い質と中等度の質のエビデンス)。パネル(外部審査員団)による整容性の評価は、腫瘍床ブースト照射群で悪いように思われた(低い質のエビデンス)。医師による整容性の評価および乳房陥没の割合に差はなかった。

この結果は、腫瘍床へのブースト照射により、整容性が悪化する可能性はあるが、腫瘍の局所制御率が向上することを示している。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)田村 克代 翻訳、原 文堅(四国がんセンター乳腺科)監訳 [2018.8.26] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD011987》

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