妊娠糖尿病患者に対する異なるタイプの食事指導

論点

妊娠糖尿病(GDM)は、妊娠中に発症する、または初めて診断される、血中の糖の過剰(高血糖)をもたらす炭水化物不耐症である。食事カウンセリングや食事指導が、患者のGDM管理を援助する主な方策であるが、どのような食事指導が最善なのかは明らかでない。このレビューで、我々は、女性とその新生児の合併症を減少させるためにGDM患者にとってどのような食事が最善かを明らかにしようと試みた。

重要である理由

GDM患者は、妊娠中に高血圧症および子癇前症(浮腫とタンパク尿を伴う高血圧症)を発症するリスクが高い。新生児は、在胎期間の割に大きくなることがある(不当過大児)。新生児は、在胎期間の割に大きくなることがある(不当過大児)。その結果、新生児は、出生時に傷害を受けるか分娩中に母親に傷害を与える可能性がある。新生児は誘発分娩になるか帝王切開になる可能性が高い。女性も新生児も、2型糖尿病や障害をふくむ長期の健康問題のリスクが高い。

どのようなエビデンスが得られたか?

2016年3月8日に医学文献を検索し、GDM患者1,398例とその新生児を対象としたランダム化比較試験19件をこのレビュー最新版のために選択した。全体として試験のバイアスリスクは、方法論的限界とエビデンスの質が低いまたは非常に低いため、不明または中等度であった。試験は概ね小規模で、同一または同様の介入を比較した試験は少数で、報告されたアウトカムは総合的ではなかった。

異なる食事指導の比較10件があった。これら比較は以下の通りであった:1) 低~中グリセミックインデックス(GI)食 対 中~高GI食(試験4件)、2) エネルギー制限食 対 エネルギー制限なしの食事(試験3件)、3) 果物、野菜、全粒穀物、低脂肪乳製品などが豊富な「高血圧を防ぐための食事方法(DASH)」 対 対照食(試験3件)、4) 低炭水化物食 対 高炭水化物食(試験2件)、5) 高不飽和脂肪酸食 対 低対不飽和脂肪酸食(試験2件)、6) 低GI食 対 高線維中GI食(試験1件)、7) 食事の推奨事項プラス食事に関連する行動の指導 対 食事の推奨事項のみ(試験1件)、8) 大豆蛋白強化食 対 大豆蛋白なしの食事(試験1件)、9) 高線維食 対 標準線維食(試験1件)、10) 民族に特異的な食事 対 標準の健康的な食事(試験1件)。

今回のレビューでは、以下の状態を来たした女性の数に異なるタイプの食事指導間で明らかな差があることは示されなかった。子癇前症を含む妊娠中の高血圧(試験9件で異なる食事の比較6件)、不当過大児(試験8件で異なる食事の比較7件)、死産および出生時前後の死亡を含む周産期死亡(試験3件で異なる食事の比較2件)、母親の2型糖尿病発症(試験2件で異なる食事の比較2件)、新生児死亡や健康障害の複合アウトカム(試験1件で異なる食事の比較1件)。帝王切開で分娩された新生児数には、DASH食による減少は別にして、明らかな差は認められなかった(試験10件で異なる食事の比較8件)。選択した試験では、新生児に後になって小児期の傷害が認められたと報告したものはなかった。

さまざまなその他のアウトカムに、異なるタイプの食事指導間で一貫した差は認められなかった。女性とその新生児の長期的健康に関連するアウトカム、医療サービスの利用および費用はほとんど報告されなかった。

意味するもの

食事指導はGDM管理の主な方策であるが、どのような食事指導が最善なのかは依然として不明である。ランダム化比較試験からの決定的なエビデンスは診療の指針としてまだ利用可能ではないが、異なる食事指導介入が検討されている。同一または同様の介入を比較した試験は少数で、試験は小規模で、報告された知見は限定的であった。女性とその新生児の健康アウトカムを短期または長期に改善する、GDM患者に対する異なるタイプの食事指導の効果を評価するため、適切にデザインされた大規模ランダム化比較試験がさらに求められる。

著者の結論: 

GDM患者に対する異なるタイプの食事指導を評価した試験19件のエビデンスからは、GRADEシステムを用いて評価した主要アウトカムおよび副次的アウトカムに関して明らかな差は示唆されなかったが、DASH食群の女性は対照食群と比較して帝王切開が少ない可能性があったことは別である。副次的アウトカムにはほとんど差は認められなかった。

各比較で試験数が少なく、サンプルサイズが小さく、方法論的な質にばらつきがあるため、今回のエビデンスには限界がある。GDM患者に対する異なるタイプの食事指導の効果を評価するには、さらに多くのエビデンスが必要である。今後の試験は短期および長期のアウトカムを評価するために十分な検出力を有するべきである。

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背景: 

食事指導は妊娠糖尿病(GDM)管理のための主な方策である。どのようなタイプの食事指導が最善なのかは依然として不明である。

目的: 

女性とその新生児の健康アウトカムを改善するための異なるタイプの食事指導の効果を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Pregnancy and Childbirth's Trials Register(2016年3月8日)、PSANZ's Trials Registry(2016年3月22日)および検索した研究の参考文献リストを検索した。

選択基準: 

GDM患者に対する異なる食事指導の効果を比較したランダム化比較試験。

データ収集と分析: 

2名のレビューアがそれぞれ研究の適格性、バイアスリスクを評価し、データを抽出した。母親の主要アウトカムに関する以下の比較2件のエビデンスの質をGRADEシステムを用いて評価した。母親の主要アウトカム:妊娠高血圧、帝王切開、2型糖尿病。新生児の主要アウトカム:不当過大児、周産期死亡、新生児死亡または健康障害の副次アウトカム、感覚神経障害。母親の複合的アウトカム:陣痛の誘発、会陰部外傷、産後うつ病、出産後体重増加または妊娠前体重への復帰。新生児の副次的アウトカム:低血糖、小児期/青年期の脂肪過多、小児期/青年期の2型糖尿病。

主な結果: 

この最新版では、GDM患者1,398例が参加したランダム化試験19件を選択し、バイアスリスクは不明から中等度であった(比較10件)。GRADEシステムを用いて評価したアウトカムに関して、研究の限界、不正確性、不一致性に基づき、評価を下げた。主要アウトカムまたは事前に設定したGRADEアウトカムについて下記に何の知見も報告されていない場合、選択した試験からは何のデータも得られなかった。

主要アウトカム

低~中グリセミックインデックス(GI)食 対 中~高GI食(試験4件):以下に関して明らかな差は認められなかった。不当過大児(リスク比(RR)0.71、 95%信頼区間(CI) 0.22 ~2.34、試験2件、児 89例、エビデンスの質は低い)、重度の高血圧症または子癇前症(RR 1.02、 95% CI 0.07~15.86、試験1件、 女性95 例、エビデンスの質は非常に低い)、子癇(RR 0.34、 95% CI 0.01~8.14、試験1件、女性 83 例、エビデンスの質は非常に低い)、帝王切開(RR 0.66、 95% CI 0.29~1.47、試験1件、女性63例、エビデンスの質は低い)。

エネルギー制限食 対 エネルギー制限なしの食事(試験3件):以下に関する明らかな差は認められなかった。不当過大児(RR 1.17、 95% CI 0.65~2.12、試験1件、 児123例、エビデンスの質は低い)、周産期死亡(事象なし、試験2件、児423例、エビデンスの質は低い)、子癇前症(RR 1.00、 95% CI 0.51~1.97、試験1件、女性117例、エビデンスの質は低い)、帝王切開(RR 1.12、 95% CI 0.80~1.56、試験2件、女性420例、エビデンスの質は低い)。

DASH(高血圧を防ぐための食事方法) 対 対照食(試験3件):以下に関する明らかな差は認められなかった。子癇前症(RR 1.00、 95% CI 0.31~3.26、試験3件、女性136例)。しかしDASH食群のほうが帝王切開が少なかった(RR 0.53、95% CI 0.37~0.76、試験2件、女性86例)。

低炭水化物食 対 高炭水化物食(試験2件):以下に関する明らかな差は認められなかった。不当過大児(R 0.51、 95% CI 0.13~1.95、試験1件、児149 例)、周産期死亡(RR 3.00、 95% CI 0.12~72.49、試験1件、児150例)、母親の高血圧症(RR 0.40、 95% CI 0.13~1.22、試験1件、女性150例)、帝王切開(RR 1.29、95% CI 0.84~1.99、試験2件、女性179 例)。

高不飽和脂肪食 対 低不飽和脂肪食(試験2件):以下に関する明らかな差は認められなかった。不当過大児(RR 0.54、 95% CI 0.21~1.37、試験1件、児 27例)、子癇前症(症例なし、試験1件、女性27例)、妊娠高血圧(RR 0.54、 95% CI 0.06~5.26、試験1件、女性27例)、帝王切開(RR 1.08、 95% CI 0.07~15.50、試験1件、女性27 例)、1~2週目での糖尿病(RR 2.00、 95% CI 0.45 ~8.94、試験1件、女性24例)、産後4~13カ月での糖尿病(RR 1.00、 95% CI 0.10~9.61、試験1件、女性6例)。

低GI食 対 高線維中GI食(試験1件):以下に関する明らかな差は認められなかった。不当過大児(RR 2.87、 95% CI 0.61~13.50、児92例)、帝王切開(RR 1.91、 95% CI 0.91~4.03、女性92例)、産後3カ月目での2型糖尿病((RR 0.76、95% CI 0.11~5.01、女性58例)。

食事の推奨事項プラス食事に関連する行動の指導 対 食事の推奨事項のみ(試験1件):以下に関する明らかな差は認められなかった。不当過大児(RR 0.73、 95% CI 0.25~2.14、児 99 例)、帝王切開(RR 0.78、95% CI 0.38~1.62、女性99例)。

大豆蛋白強化食 対 大豆蛋白なしの食事(試験1件):以下に関する明らかな差は認められなかった。子癇前症(RR 2.00、95% CI 0.19~21.03、女性68 例)、帝王切開(RR 1.00、 95% CI 0.57~1.77、女性68例)。

高線維食 対 標準線維食(試験1件):主要アウトカムは報告されなかった。

民族に特異的な食事 対 標準の健康的な食事(試験1件):以下に関する明らかな差は認められなかった。不当過大児(RR 0.14、 95% CI 0.01~2.45、児20 例)、新生児の複合有害アウトカム(事象なし、児20例)、妊娠高血圧(RR 0.33、 95% CI 0.02~7.32、女性20例)、帝王切開出産(RR 1.20、 95% CI 0.54~2.67、女性 20例)。

副次アウトカム

GRADEシステムを用いて評価した副次的アウトカムに関して差は認められなかった。低~中GI食 対 中~高GI食、陣痛の誘発に関して (RR 0.88、 95% CI 0.33~2.34、試験1件、女性63例、エビデンスの質は低い)、エネルギー制限食 対 エネルギー制限なしの食事、陣痛の誘発に関して(RR 1.02、 95% CI 0.68~1.53、試験1件、女性114例、エビデンスの質は低い)、新生児低血糖に関して(平均RR 1.06、 95% CI 0.48~2.32、試験2件、児408例、エビデンスの質は非常に低い)。

報告されたアウトカムに関してその他の明らかな差はほとんど認められなかった。長期の健康アウトカムと医療サービスの利用および費用はほとんど報告されなかった。

訳注: 

CD009275の翻訳Pub3

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