生殖補助医療における胚移植前の抗生物質投与

レビューの論点

生殖補助医療(ART)において、胚移植前または胚移植時に抗生物質を投与すると治療成績が向上するのか?

要点

- この調査結果は、あらかじめ決めておいた全評価項目において、体外受精(IVF)の成功率を向上させる目的で胚移植時に抗生物質を使用することを支持しなかった。

- 性器内のコロニー形成率(性器内に存在する細菌数の指標)を適切に調査した1件の研究において、抗生物質の使用は臨床妊娠率に影響を及ぼさなかった。

胚移植前または胚移植時に抗生物質を投与することで、体外受精の成績はどのように改善するのか?

体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、不妊症の人が赤ちゃんを授かるために用いられる生殖補助医療(ART)技術である。体外受精・顕微授精では、女性の卵巣から卵子を取り出し、培養室で精子と受精させる。受精してできた胚は、子宮口から細いチューブを通して子宮に移植される。胚移植後の妊娠の可能性には、胚の質や子宮内の環境など多くの要素が影響を与える。子宮内の細菌数が多いと、妊娠率が低下する可能性がある。胚移植前に抗生物質を投与することで、これらの細菌の増殖を抑え、ARTの結果を改善できる可能性がある。一方、妊娠に有利な細菌もあるかもしれない。抗生物質はこのような環境を変化させ、治療の結果(妊娠するかどうか、など)に影響を及ぼす可能性がある。

何を調べようとしたのか?

このレビューでは、胚移植前または胚移植時に投与された抗生物質が、妊娠率やARTにおけるその他の重要な転帰に影響を及ぼすかどうかを検討した。

実施したこと

ARTにおける胚移植前または胚移植時に抗生物質を投与した場合と投与しなかった場合を比較した研究を検索した。その結果を比較、要約し、研究方法や規模などの要素から、エビデンスに対する信頼性を評価した。

わかったこと

体外受精・顕微授精を受けた377人の女性を対象とした2件の研究が見つかった。一方は350人、もう一方は27人の女性が対象となった。それぞれの研究は、2つの異なる国の単一のクリニックで行われた。すべての女性が、刺激周期(卵巣を薬で刺激して、複数の卵子を成長・成熟させる治療を受けた月経周期)で胚移植を受けた。抗生物質のレジュメ(抗生物質の種類、用量、投与する時期)は2件の研究で異なっていた。1件の研究では、すべての女性が胚移植の際に抗生物質を静脈内に1回投与されていた。

エビデンスの限界は何か?

性器内の細菌が変化する可能性はあるが、胚移植前または胚移植時に抗生物質を投与することがARTの成功に違いをもたらすかどうかは分からない。子宮内の細菌量が変化するかどうかについては、利用可能な情報を提供する研究が1件しかないため、不明である。もう1件の研究は小規模で、すべての女性が胚移植中に抗生物質を静脈内投与されており、これが結果に影響を与えた可能性がある。

本エビデンスはいつのものか?

本エビデンスは2022年11月時点のものである。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳[2024.04.24]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008995.pub3》

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