妊娠中の女性に対するビタミンD補充

論点

ビタミンD補充が、カルシウムやその他のビタミンおよびミネラルとの併用の有無を問わず、母子にとって有益または有害であるかどうかは不明である。

重要である理由

ビタミンDは、ヒトの健康、特に、骨、筋肉、神経および全般的な細胞機能にとって不可欠である。妊娠中の女性において、血中ビタミンD濃度が低くなると、妊娠合併症の原因となる。妊娠中のビタミンD追加補充は、妊娠合併症を予防する上で必要となる場合がある。

このレビューからわかったこと

これは、2012年に初めて発表され、その後2016年に更新されたレビューの最新版である。 本レビューでは、妊娠中の女性を対象としてビタミンD補充を単独またはその他の微量栄養素との併用で行った場合の効果について、プラセボまたは介入なしと比較し、用量、補充の期間または開始時期、補充の種類(経口または静脈内投与)を問わずに検証した。

どのようなエビデンスが得られたか?

科学的根拠(エビデンス)について検索し(2018年7月)、今回の更新の対象として試験30件(女性7033例)を検出した。

妊娠中の女性3725例を対象とした22試験のエビデンスから、妊娠中のビタミンD単独補充により、プラセボや介入なしと比較して、子癇前症、妊娠糖尿病、低出生体重児のリスクが減少する可能性、また早産のリスクについては、ほとんどあるいは全く差がない可能性が示唆される。ビタミンDによって、重度の分娩後出血など、母体の有害事象のリスクが減少する可能性があるが、この結果は予測外のことであり、1件の試験のみに基づいていることに留意する必要がある。

妊娠女性1916例を対象とした9試験のエビデンスから、ビタミンDとカルシウムの補充により、子癇前症のリスクが減少する可能性があるが、早産のリスクが増加する可能性が示唆される。このわずかな有害性については、出産前ケアとしてカルシウム補充を受けている女性で注意が必要である。

妊娠女性1300例を対象とした1試験のエビデンスから、ビタミンD+その他の栄養素を補充しても、大半の評価項目のリスクにほとんどあるいは全く差がない可能性が示唆される。

母体の有害事象に関するデータは、大半の試験で不足していた。

結果が意味すること

ビタミンDのみを妊娠女性に補充すると、子癇前症、妊娠糖尿病、低出生体重、重度の分娩後出血のリスクが減少する可能性がある。妊娠37週未満の早産のリスクについては、ほとんどあるいは全く差がないと考えられる。ビタミンDとカルシウムを妊娠女性に補充すると、子癇前症のリスクが減少する可能性があるが、37週未満の早産のリスクが増加する可能性がある(これらの結果はさらなる検証が必要である)。ビタミンDとその他の栄養素を妊娠女性に補充しても、早産や低出生体重児(2500 g未満)のリスクにほとんどあるいは全く差がない可能性があり、妊娠糖尿病および母体の有害事象に対する効果は不明である。妊娠中のビタミンD補充の効果、特に母体の有害事象のリスクに関して評価するには、綿密で質が高く、より大規模なランダム化試験がさらに必要である。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2019.09.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008873.pub4》

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