術後悪心嘔吐治療のための芳香療法(アロマセラピー)

レビューの論点

今回のレビューは、手術直後に一部の人に起こる悪心嘔吐の重症度と継続時間において、芳香療法の効果を評価することを目的とした。

背景

術後悪心嘔吐(Postoperative nausea and vomiting :PONV)は、術後の副作用として高頻度にみられ、吸入麻酔薬を用いた一般的な麻酔の後に、全患者の1/3に上る人が中等度~重度の悪心と嘔吐に苦しんでいる。悪心は、嘔吐を伴う場合もある腹部の不快感または吐き気である。現在の薬物治療は、患者にとって必ずしも有効ではなく、不快な有害作用をもたらすこともある。芳香療法は、エッセンシャルオイルや他の物質の蒸気を吸入し、身体的、感情的諸症状を治療または緩和するものである。芳香療法は、その有効性を示す科学的根拠(エビデンス)が十分ではないが、悪心や嘔吐の治療に推奨されることがある。今回のレビューは、前回の2012年に発表されたレビューの更新版である。

試験の特性

PONVの治療に対し、芳香療法を用いた計1036例の参加者を対象とした16件の比較臨床試験(元のレビュー9件に、2017年3月に検索した新しい試験7件を追加した)を検証した。参加者は、2件の小児の試験以外は、成人であった。試験は、手術直後の最初の悪心の訴えに芳香療法を適用し、悪心を2日に上り測定した。芳香療法で使用した物質は、イソプロピルアルコール(消毒用アルコール)、ペパーミントオイル、ジンジャー、またはジンジャー・スペアミント・ペパーミント・カルダモンの混合、ラベンダー・ペパーミント、ジンジャー・スペアミントの混合であった。

それらの試験は、芳香療法と生理食塩水または水プラセボ、呼吸制御、他の芳香療法物質、制吐薬またはそれらの併用とを比較し、中には最大4群を比較した試験もあった。

主要な結果

全体的に、芳香療法は、生理食塩水、水または呼吸制御のプラセボと比較して、治療3分後以降の時点で悪心の重症度を低減することに効果はなかった(241例の参加者、6件の試験)が、芳香療法を受けた患者のより多くが、治療終了時に悪心がない状態となり(193例の参加者、4件の試験)、芳香療法を受けたより少数の参加者が、制吐薬を必要とした(609例の参加者、7件の試験)。

ペパーミントオイルは、治療5分後の悪心重症度に対して効果がみられなかった。

悪心重症度におけるイソプロピルアルコールと制吐薬を用いた標準治療との比較は、データを統合することができなかった。悪心の継続時間に関して、症状が50%軽減するまでの時間は、イソプロピルアルコール蒸気吸引が標準制吐薬(オンダンセトロンとプロメタジン)より早かった(176例の参加者、3件の試験)。イソプロピルアルコール蒸気吸引を用いる芳香療法は、即効性のある短時間の悪心軽減をもたらし、制吐薬のレスキュー投与の必要性を低減した(215例の参加者、4件の試験)。このアウトカムを測定した4件の試験において、患者の芳香療法の満足度は高いようであった。

イソプロピルアルコールの芳香療法は、生理食塩水と比較して、制吐薬のレスキュー投与を必要とした参加者がより少なかった(291例の参加者、4件の試験)。芳香療法を受けた参加者は、治療終了時点で、悪心のない状態になりやすかったわけではないが、制吐薬のレスキュー投与の必要性がより少ない傾向にあった。

これらの試験の全参加者(治療群と対照群)が、高い満足度を報告したことは、芳香療法の注目度が増し、術後悪心嘔吐治療の満足度が改善したことを示唆すると考えられる。芳香療法は、特に代替が全くない状況では、有用な治療選択肢である可能性がある。

対象としたどの試験も、芳香療法による有害作用の報告はなかった。

エビデンスの質

全体的にエビデンスの質は、GRADEによる評価によると、中等度~非常に低かった。試験のデザインにおいて、高いバイアスのリスクがある試験がいくつかあった。対象とした試験は、12件のランダム化比較試験と4件の比較試験だが、ある治療群に参加者がランダムに割り付けられていなかった。ほとんどの試験は、参加者と研究者らが治療群の割り付けを知っており、これが結果に影響を及ぼした可能性がある。強い匂いが関与するということは、芳香療法が参加者、研究者、評価アウトカムからの隠蔽を行うには難しい介入であることを意味する。異なる比較や時点、測定尺度は、統合され得るデータに限界をもたらす。標準尺度や標準指標と表現されたデータもあったが、それはメタアナリシスにおいて結果の統合を可能にした。60分以上の効果についてのデータは、不十分であった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2019.09.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007598.pub3》

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