境界性パーソナリティ障害に対する薬物治療

多くの境界性人格障害(BPD)患者が投薬による治療を受ける。しかし、BPDの治療で特異的に利用される薬剤はない。ほとんどの場合、BPDに関連する精神疾患の治療で知られている特性、若しくは抑うつ、精神病、または不安障害などの他の病状でBPDの症状が認められることから特定の薬剤が選択される。BPD自体は、情動調節(症状:不適切な怒り、慢性的な空虚感、および情動不安定などの症状)、衝動制御(症状:自傷行為または自殺行為、自殺念慮、または他人に対する自殺の威嚇)、対人問題(症状:放棄を必死に回避するための努力、他人の理想化や過小評価を伴う不安定な関係のパターン)、および認知-知覚問題(症状:自己認知の面で同一性障害、ストレス過多状況下での一過性の偏執的思考や離人感)で認められる情緒不安定の広汎パターンによって特徴付けられる。このレビューは、高品質のランダム化試験で評価されたBPDに対する薬剤の治療効果について現在のエビデンスを要約することを目的としている。

対象とした研究では、BPDでの抗精神病薬、抗うつ薬および気分安定剤治療効果試験した。さらに、気分安定効果があると考えられる栄養補助食品オメガ3脂肪酸(一般に魚由来)について試験した。1742例の被験者で実施した28件の研究を対象とした。

所見では、第2世代の抗精神病薬、気分安定剤、およびオメガ3脂肪酸より有用性が得られることが示唆される傾向があったが、ほとんどの効果予測は単回投与の試験に基づいたものであることから、効果は非常に便利な反復投与の試験が有用になると考えられる。さらに、これらの薬剤の長期使用については評価されていない。個々の比較のために得られた少量の情報から、第1世代の抗精神病薬および抗うつ薬に対する限界効果が示された。

またデータから、オランザピン投与患者では自傷行為が増加することが示された。全体的に、有害作用に注意を払う必要がある。ほとんどの臨床試験は詳しい有害作用のデータが得られていないことから、このレビューでは検討できなかった。これら薬剤の効果は、他の精神疾患患者で認められた効果と同様であると考えた。このレビューで対象とした使用可能な研究データで、有害作用と考えられ対象とした作用には、オランザピンによる治療で体重増加、鎮静および血液パラメータの変更、またトピラメートで体重減少などがある。第1世代の抗精神病薬および抗うつ薬では、有益な効果がほとんど確認されていない。しかし、これらの薬剤はBPDの主な病態ではない併存疾患が認められる場合は有用となる可能性があるが、これらの症状はBPD患者ではよく認められる。

薬剤を比較した研究結果はわずかであり、その被験者数は少ない。従って、現在の試験の発見およびこのレビューは確固たるものではなく、将来の研究努力によって容易に変わる可能性がある。さらに、臨床状況の特徴(とりわけ、患者の特徴、また介入期間および観察期間)が適切に反映されていない特徴もある可能性がある。

著者の結論: 

得られたエビデンスからは、第2世代抗精神病薬、気分安定剤、およびオメガ3脂肪酸による栄養補助で有益な効果が認められている。しかし、これらは主に単回投与の試験で得られた効果の推定に基づく所見である。抗うつ薬は、BPDの治療では広くは支持されないが、併存疾患が認められる場合は有用な可能性がある。全体的なBPDの重症度は、いずれの薬剤でも顕著な影響は受けていない。空虚感、同一性障害、自暴自棄という慢性的な感情の中核となるBPDの症状について有望な結果は得られていない。ランダム化比較試験で得られたエビデンスに多少の欠点があるという点で、普段の治療環境(特に患者の特徴や介入と観察期間の長さ)へ適用することに制約があることに注意して結論づける必要がある。

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背景: 

境界性人格障害(BPD)治療には薬剤が広く使用され、他の精神障害で知られる特性により選択される薬剤では(「適正外使用」)、主に感情症状または衝動症状の集団を対象とする。

目的: 

BPD患者における薬剤治療効果を評価する。

検索方法: 

2009年9月までCochrane Developmental, Psychosocial and Learning Problems Groupの戦略に従って書誌データベースを検索し、また参考文献一覧の検索、およびこの分野の研究者に連絡した。

選択基準: 

BPD患者を対象として薬剤とプラセボ、または薬剤と薬剤を比較したランダム化試験。アウトカムには、全重症度のBPD、DSM-IV基準による明確なBPD症状の尺度、BPDに特異的ではない関連した精神病理学、消耗および有害作用を対象とした。

データ収集と分析: 

2名の著者がそれぞれ、試験の選択、質を評価、データの抽出を行った。

主な結果: 

総数1742例の被験者で実施した28件の試験が対象となった。第一世代の抗精神病薬(デカン酸フルペンチキソール、ハロペリドール、チオチキセン)、第二世代の抗精神病薬(アリピプラゾール、オランザピン、ジプラシドン)、気分安定剤(カルバマゼピン、バルプロ酸セミナトリウム、ラモトリジン、トピラマート)、抗うつ薬(アミトリプチリン、フルオキセチン、フルボキサミン、フェネルジン硫酸、ミアンセリン)、および栄養補給(オメガ3脂肪酸)で試験した。第一世代の抗精神病薬は、古い試験の傾向があり、一方で最近の研究は第二世代の抗精神病薬と気分安定剤に焦点を当てている。個別の比較を行うためのデータがわずかしかないことから、第一世代の抗精神病薬と抗うつ薬に対する限界効果が示された。

所見について、ほとんどの効果の推定が単回投与の試験に基づいたものであるため、第二世代の抗精神病薬、気分安定剤、およびオメガ-3脂肪酸の使用の支持を示唆したが、反復投与の試験が必要である。これら薬剤の長期投与については評価されていない。

オランザピンを除いて、有害事象のデータが不足していた。オランザピンでは、自傷行為、顕著な体重増加、鎮静および血液像パラメータの変化が増加したと考えられる。トピラマートによる治療では、顕著な体重減少が認められた。全ての薬物は、消耗の点で十分な忍容性が示された。

直接比較した薬剤は、第一世代の抗精神病薬2剤(ロキサピンとクロルプロマジンの比較)、抗うつ薬に対して第一世代の抗精神病薬(ハロペリドールとアミトリプチリン、ハロペリドールとフェネルジン硫酸の比較)、及び抗うつ剤に対する第二世代の抗精神病薬(オランザピンとフルオキセチンの比較)であった。データから、硫酸フェネルジンでは他剤より良い結果が示されたが、オランザピンでフルオキセチンと比較し体重増加と鎮静が認められたことを除き、他の比較では有意が認められなかった。単剤療法と併用療法との比較(オランザピンとオランザピン+フルオキセチンとの比較、フルオキセチンとフルオキセチン+オランザピンとの比較)を行った唯一の試験では有意が得られていない。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.27]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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