健康な小児におけるインフルエンザワクチンの予防効果

レビューの目的

2007年に初版が発行された、本コクランレビューの目的は、インフルエンザのシーズン中に、インフルエンザワクチンを接種された健康な16歳までの小児に関する研究を要約することである。2種類のワクチンのどちらか片方を投与した群と、ダミーのワクチンを投与した群、もしくはなにも投与しない群を比較した無作為化試験を用いた。片方のワクチンは生菌だが、弱毒化したインフルエンザウイルスをもとにしており(弱毒生ワクチン)、経鼻投与する。もう一方のワクチンは化学処理で殺したインフルエンザウイルスをもとにしており(不活化ワクチン)、経皮的に注射する。我々は、インフルエンザと確定診断された小児およびインフルエンザ様疾患(influenza-like illness (ILI) ; 頭痛、高熱、咳、筋肉痛)と診断された小児の人数と、ワクチンによる有害事象の数を調べた。新しい試験が行われた場合と、新しいワクチンが使用可能になる場合のみ、このレビューはアップデートされるだろう。前バージョンのレビューに含まれた33件の観察研究は、歴史的な理由のためにそのまま使用しているが、レビューの結論に影響を与えないため、アップデートしていない。

要点

弱毒生ワクチンと不活化ワクチンにより、インフルエンザとILIの小児の割合が減少する。各研究の結果のばらつきは、異なる季節の間でこれらのワクチンの効果がはっきりしないことを意味する。

このレビューから分かったこと

200以上のウイルスがILIや、インフルエンザに似た症状(発熱、頭痛、ずきずきした痛み、急な激しい痛み、咳、鼻水)を引き起こす。医師は検査しなければ、これらを区別することは出来ない。なぜなら、どちらも数日続くし、深刻な病状になったり、死ぬことはほとんどないからだ。

世界保健機構(WHO)の季節性インフルエンザワクチンに関する勧告によると、ワクチンに含まれるウイルスの種類は、通常、インフルエンザの次の流行期で流行すると予想されるウイルスが含まれている。パンデミックワクチンは、パンデミックの原因となるウイルス株だけが含まれる。(例えば、2009年から2010年にパンデミックを起こしたインフルエンザウイルスA型H1N1)

主な結果

41件の無作為化試験を見つけた。多くの研究は2歳以上の小児を組み入れており、米国、西ヨーロッパ、ロシア、バングラデシュで実施されていた。

プラセボもしくはなにも投与しない場合と比較して、弱毒生ワクチンを投与した場合、インフルエンザと確定診断された小児の割合は18%から4%に減少し(中等度のエビデンス)、ILIは17%から12%に減少した(不確実なエビデンス)。インフルエンザの発症を1例予防するには、7人の小児にワクチン接種が必要であり、ILIの発症を1例予防するには、20人の小児にワクチン接種が必要となる。1件の研究では、2群間で耳の感染症のリスクは同じであった。学校の欠席と、親が仕事を休んで時間をとる必要性を評価をするには、利用できる情報が十分ではなかった。入院に関するデータは見つからず、一貫して報告されている有害事象はなかった。

プラセボ投与もしくはワクチンを投与しない場合と比較して、不活化ワクチンを投与した場合、インフルエンザのリスクは30%から11%に減少し(高い確実性のエビデンス)、ILIはおそらく28%から20%に減少する(中等度の確実性のエビデンス)。インフルエンザの発症を1例予防するには、5人の小児にワクチン接種が必要であり、ILIの発症を1例予防するには、12人の小児にワクチン接種が必要となる。中耳炎のリスクは、ワクチンを接種した群とワクチン接種していない群でおそらく同程度である(31%と27%、中等度の確実性のエビデンス)。1件の研究の、とても確実性の低いエビデンスしかなかったので、学校の欠席について評価するには、利用できる情報が十分ではなかった。親の労働時間の損失、入院、発熱、嘔気に関するデータを見つけることはできなかった。

1価パンデミックワクチンのうちの一つの商品が、小児において、激しい感情が引き金となる突然の筋緊張消失(カタプレキシー)、睡眠障害(ナルコレプシー)と関連していた。

デザインと試験運用が良かった研究はほんの少しだけしかなく、バイアスのリスクが高い研究の影響は、評価項目により異なっていた。インフルエンザと中耳炎は、結果にバイアスの影響がないと確信を持てる唯一のアウトカムだった。

本レビューはどれくらい最新のものなのか

本エビデンスは2016年10月31日現在のものである。

訳注: 

《実施組織》井上円加 翻訳、井村春樹 監訳[2018.6.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD004879》

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