薬物耐性てんかんにおけるケトン食

背景

てんかんは、脳からの異常な放電 により再発性の痙攣発作が引き起こされる疾患である。多くの人の場合、1種類以上の抗てんかん薬によって発作はコントロールできる。しかし、発作が続く人(薬物耐性てんかんの人)に対し、特別な食事療法(ケトン食)が検討されることがある。ケトン食は、脂質が多く炭水化物が少ない食事である。

本レビューでは、発作の制御、学習力と記憶力および行動に対するケトン食療法の効果を調査した。また、食事療法による副作用や研究から脱落した参加者数およびその理由を調査した。

研究の特性

てんかんの成人または小児において、ケトン食と他の治療法とを比較した臨床試験について医療データベースを検索した。参加者932例を対象とする13件の試験を同定した。試験期間は2~16カ月であった。

主要な結果

ケトン食を摂取した群では、通常のケアを受けた群と比較して、発作がなくなる確率が最大3倍高くなり、発作回数が50%以上減少する確率が最大6倍高くなる可能性がある。発作がなくなる割合はほとんどの研究でわずかだったが、1件の研究では、古典的なケトン食を摂取した小児の半数以上で発作が起きなくなった。小児が制限のゆるい修正アトキンス食を摂取したところ、発作が消失する割合は減少し、小児の15%にとどまった。別の研究では、古典的なケトン食を摂取した小児の85%に発作回数の有意な減少があったのに対し、修正アトキンス食を摂取した小児では約半数であったことが報告されている。一方、1件の研究では、忍容性が比較的良好な修正アトキンス食を摂取したとき、制限がさらに厳しいケトン食と同等の発作の制御効果が認められており、さらに研究が必要であることが浮き彫りになった。

成人では、ケトン食を摂取しても発作がなくなったという報告はなかったが、ケトン食を摂取した成人では発作回数が50%以上減少する確率が最大5倍高くなる可能性がある。

いずれの研究でも、発作の改善がなく食事に対する忍容性が不良なために、研究から脱落した参加者がいたことが報告されていた。ケトン食を摂取した成人では、通常のケアと比較して、研究から脱落する確率が最大5倍高くなる可能性がある。小児では、ケトン食群も通常のケア群も研究脱落率が同等である可能性がある。

1件の研究が小児の生活の質(Quality of Life:QOL)、学習力、記憶力および行動に対するケトン食の効果を報告していた。同研究から、ケトン食を摂取した小児と通常のケアを受けた小児の間では、QOLに差がないことが示唆された。ケトン食を摂取した小児のほうが活動的かつ生産的であり、不安が少ないことが示唆されたが、さらに研究が必要である。

エビデンスの確実性

試験はいずれも参加者数が少なく限られており、試験方法も明確ではなかった。このため、エビデンスの確実性は低い~非常に低いと判断した。つまり、上述の結果は、てんかんの人に対するケトン食の真の作用を正確に反映しているとはいえないことを意味する。

本エビデンスは2019年4月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2020.12.28]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001903.pub5》

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