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慢性腰痛に対する椎間板全置換術

人工関節は、膝及び股関節の疼痛を低減し機能を改善する上で著明な効果をもたらしている。しかし脊椎の関節置換術ではどうだろうか?本システマティックレビューでは、ランダム化比較試験における慢性腰痛に対する椎間板全置換術とその他の治療の比較を行った。 椎間板は、脊椎の椎骨のクッションとなりそれを分離する、強固であるが可撓性のある構造である。椎間板変性は加齢過程のほぼ一般的な特性である。腰痛の原因について多くの学説があるが、慢性症状は多くの場合、椎間板変性が原因である。従って、患者が非外科的治療により改善しない場合、変性した椎間板を除去する手術を考慮する場合がある。 この分野で伝統的な外科的アプローチは、脊椎固定術で、変性した椎間板全体又は一部を除去し、上下の椎骨を接合する方法である。過去のレビューにより、固定術により中等度の疼痛緩和及び軽微な機能回復が得られることが示されている。固定術は伝統的な理学療法より優れているが、その効果は集中的なリハビリテーション・プログラムと変わらないものと思われる。 代替的な外科的アプローチが椎間板全置換術で、椎間板を除去し、金属又はプラスチック製の人工インプラントと置換する。 患者総数1,474名を含む7件のランダム化比較試験を同定した。椎間板全置換術と非外科的処置を比較する試験は1件のみで、手術のアウトカムは集中的リハビリテーションよりわずかに良好であった。しかしこの結果から、患者の生活に大きな違いをもたらす臨床的に意味のある利点が得られるという結論は得られなかった。 6件のランダム化比較試験では、人工椎間板置換術と脊椎固定術との比較を行っている。上記試験の大半でバイアスの高い可能性が認められ、試験下で治療の公正な検討はされなかった可能性がある。上記試験では、椎間板全置換術を実施した患者の方が固定術を受けた患者より、腰痛及び機能の面で若干良好なアウトカムが得られた。しかし再度確認するが、この差は臨床的に意味があるとは思われなかった。 本レビューでは、椎間板全置換術にその他のいかなる利益のエビデンスも得られず、上記試験からは、本施術に伴う長期リスクに関する洞察は得られなかった。本レビューにより、エビデンス間に違いがあることから、脊椎外科では本手技の大規模な採用については慎重を期すべきと結論づけられた。

背景

椎間板変性を伴う慢性腰痛(LBP)のより優れた外科的処置を追求する中で、近年、椎間板全置換術が注目を集めている。固定術に比べた椎間板全置換術の利点として考えられるのは、施術レベルの可動性が維持される点で、隣接部分の変性を抑えることである。

目的

本システマティックレビューの目的は、腰椎間板変性を伴う慢性腰痛に対する椎間板全置換術が、患者中心の改善、運動保存及び隣接部分の変性の点から見てその他の治療選択肢より効果があるか否かを評価することである。

検索戦略

Cochrane Back Review Group(CBRG)の試験登録、CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、BIOSIS、ISI及びFDA registerの包括的検索を実施した。又、参考文献リストをチェックし、対象試験の引用を追跡した。

選択基準

変性椎間板疾患に対する椎間板全置換術実施をその他の介入と比較するランダム化比較試験(RCT)を組み入れた。

データ収集と分析

CBRG基準を用い、試験毎にバイアスのリスクを評価した。GRADEアプローチに従い、エビデンスの質を評価した。レビューア2名が別々に試験を選択し、当該試験のバイアスのリスクを評価した。結果及び信頼区間上限値を所定の臨床関連の差と比較した。

主な結果

7件の独自のRCTを記載する40の発表物を組み入れた。当該試験の追跡期間は24ヵ月間で、1件のみ5年間であった。5件の研究ではバイアスリスクは低かったが、組み入れた研究はスポンサーが付いていたり、盲検化がなされていないため、バイアスリスクは高かった。1件の試験では、椎間板置換術とリハビリテーションを比較し、外科的処置に統計的に有意な利点を認めたが、所定の臨床関連性の閾値には達しなかった。6件の試験では、椎間板置換術を固定術と比較したところ、VAS腰痛平均改善度が(100mmのうち)5.2 mm高く[2件の試験、患者676名、95%信頼区間(CI) 0.18~10.26]、エビデンスの質は低かったが、同試験で脚部疼痛に差を認めなかった。椎間板置換術後24ヵ月目のオズウェトリー・スコアの改善度は固定術群より4.27ポイント高く[5件の試験、患者1,207名、95%CI 1.85~6.68]、エビデンスの質は低かった。VAS腰痛及びオズウェトリー・スコアの信頼区間上限値はともに、所定の臨床関連の差以下であった。対照群の選択(前方椎体間固定)によりアウトカムが異なるとは思われなかった。

著者の結論

統計的に有意ではあるが、変性椎間板疾患に対する椎間板置換術と従来の固定術との間の差は、短期疼痛緩和、障害及びQOLの点で、一般に受容される臨床的に重要な差を超えるものではなかった。さらに、上記解析は、高度に選択された集団のみを表していた。椎間板全置換術による隣接レベルの疾患及び椎間関節変性を予防するという主要目標は、製造・販売元が記しているように、適切に評価されておらず、それを疑問視する研究もなかった。残念なことに、観察試験のエビデンスはバイアスのリスクが高いため使用不可能であったが、これら試験により、さほど選択的ではない患者集団における合併症の外的妥当性評価を改善できた。しかし非ランダム化比較試験では、患者選択をきわめて明瞭にすべきで、独立の盲検化したアウトカム評価を組み入れる必要があり、その点が除外された試験とは異なる。従って、数年後に有害性及び合併症が生じると思われることから、選択された患者に対し椎間板全置換術が腰痛治療として有効と思われ、短期では固定術と同等以上であるという事実にも拘らず、脊椎手術で大規模に本手技を採用することについては慎重にすべきであると考える。

訳注

Translated by: MINDS

Translation supported by:

Citation
Jacobs W, Van der Gaag NA, Tuschel A, de Kleuver M, Peul W, Verbout A, Oner FC. Total disc replacement for chronic back pain in the presence of disc degeneration. Cochrane Database of Systematic Reviews 2012, Issue 9. Art. No.: CD008326. DOI: 10.1002/14651858.CD008326.pub2.