要点
- 幹細胞による治療は、急性心筋梗塞の臨床成績の改善にはつながらない。
- 幹細胞による治療は、急性心筋梗塞の治療期間中に有害事象を引き起こすことはほとんどない。
急性心筋梗塞が引き起こす問題は何か?
急性心筋梗塞は、心臓の筋肉(心筋)に血液を供給する動脈の閉塞によって引き起こされる。新しい治療法が進歩しているとはいえ、急性心筋梗塞を起こした人の多くは心臓の機能が低下し、余命も短くなる。
急性心筋梗塞はどのように治療されているのか?
現在の急性心筋梗塞に対する標準的な治療法は、経皮的冠動脈形成術(PCI)である。小さな風船を用いて閉塞した動脈を再び開き、ステントと呼ばれる小さな管を挿入して動脈の開通状態を維持する方法である。
どのような治療法が研究されているのか?
骨髄由来細胞は、損傷した心筋を修復する能力があることから、心臓発作の追加治療として研究されており、心臓の損傷に関係する血液中の化学物質や、心機能を測定する画像検査などの結果に有益な効果が見られることがわかっている。しかし、死亡や再入院、または別の重大な心臓疾患(脳卒中や他の心臓発作など)を起こす可能性といった重要な臨床成績に影響を与えるかどうかについてはわかっていない。
何を調べようとしたのか?
すべての研究データを統合し、幹細胞による治療が死亡例の減少や心機能の改善につながるかどうかについて評価することを試みた。
何を行ったのか?
本レビューでは、急性心筋梗塞と診断された参加者に対し、幹細胞治療、プラセボ(偽の治療)、または標準的な内科的治療のみのいずれかに無作為に割り付けた臨床試験を特定するために、2022年2月までの関連する臨床試験のデータベースを検索した。これらの臨床試験を組み入れた後、共通の傾向を見つけるためにデータを分析した。また、バイアスのリスク(参加者が自身の受けている治療を認識していた可能性を含む)についても分析を行った。
何を見つけたのか?
本レビューでは、合計4,159人が参加した53件の研究からデータを抽出し、分析を行った。その結果、幹細胞治療は、急性心筋梗塞に対する臨床成績を改善していなかった。また、幹細胞治療による治療前後における有害事象はほとんど認められなかった。
エビデンスの限界は何か?
一部の研究では、参加者が自身の受けている治療を意図せずに認識していた可能性があった。また、すべての研究が、分析を試みたすべての情報を提供していたわけではなかった。
本エビデンスはいつのものか?
2022年2月時点におけるエビデンスである。
《実施組織》小泉悠、杉山伸子 翻訳[2024.10.16]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006536.pub5》