要点
1.デクスメデトミジンは、痛みを和らげ、睡眠を誘発するために使用する薬である。人工呼吸器(呼吸を補助する機械)が必要な新生児に対して用いる。 人工呼吸中の新生児にデクスメデトミジンを使用することも、使用しないことも、その裏付けとなるエビデンスは見つからなかった。
2.新生児、特に超早産児は最も状態が悪いため、この患者層に対するデクスメデトミジンの有益性と有害性を明らかにするには、十分にデザインされた研究が必要である。
デクスメデトミジンとは
デクスメデトミジンは鎮静剤である。鎮静剤は、人がリラックスして穏やかな気分になるよう促すことによって作用する。多くの場合、鎮静剤を服用すると眠りに落ちる。デクスメデトミジンには鎮痛作用もある。デクスメデトミジンは、集中治療、機械的人工呼吸、緊張の多い診断のための処置や手術の際に、リラックスして痛みを感じにくくするために、あらゆる年齢の人に投与される。
人工呼吸中の新生児にとって、なぜこれが重要なのか
新生児の約9%が出生後そのまま新生児集中治療室(NICU)に入院する。そのような新生児の多くは、呼吸の補助を必要とし、人工呼吸器を装着している。機械的人工呼吸とNICUでの時間は新生児にとってストレスである。新生児期の痛みやストレスは、(成人期まで)長期にわたる合併症につながる。そのため、集中治療中は痛みを和らげ、ストレスを軽減する薬が必要になることが多い。
人工呼吸器に伴う痛みやストレスを軽減するため、乳児には通常、オピオイド(モルヒネ、フェンタニル)などの鎮痛薬とミダゾラムが併用される。ミダゾラムはベンゾジアゼピン系(鎮静剤)で、赤ちゃんをリラックスさせる働きがある。モルヒネもフェンタニルも、身体的依存、禁断症状、消化や呼吸の遅れといった深刻な副作用がある。
デクスメデトミジンは、オピオイドやベンゾジアゼピンの代わりに、または少量のオピオイドと組み合わせて使用することができる。デクスメデトミジンは呼吸に影響を与えない(乳児が呼吸を忘れることがない)ため、カンガルーケア(早期皮膚接触【訳注:母親や父親の胸部で直接乳児との肌と肌の接触をすること】)の際の介助が簡便になる。
知りたかったこと
デクスメデトミジンが、人工呼吸を必要とする病気の新生児の痛みやストレスの緩和に有効で安全な薬かどうかを明らかにしたいと考えた。
実施したこと
人工呼吸が必要な病的新生児を対象として、デクスメデトミジンをオピオイド(モルヒネやフェンタニルなど)、非オピオイド鎮静薬(ケタミン、ミダゾラム、フェノバルビタール、プロポフォールなど)、プラセボ(ダミー治療)と比較した研究を検索した。
わかったこと
デクスメデトミジンを鎮静薬やプラセボと比較した研究は見つからなかった。デクスメデトミジンとフェンタニル、モルヒネ、ケタミン+デクスメデトミジンを比較した進行中の研究が4件見つかった。ただ、各研究の対象である新生児が人工呼吸を必要とするかどうかまだ不明であるため、このような研究が、人工呼吸中の赤ちゃんの鎮痛と鎮静のためにデクスメデトミジンを使用することについての疑問に対する答えになるかどうかはわからない。
エビデンスの限界
機械的人工呼吸を行っている早産児の痛みや不快感を軽減するためにデクスメデトミジンを使用すること、または使用しないことを支持するエビデンスは見つからなかった。
本エビデンスの更新状況
エビデンスは2023年9月現在のものである。
《実施組織》 小林絵里子、ギボンズ京子 翻訳[2024.11.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012361.pub2》