要点
-
妊娠中の鉄分不足による貧血の治療には、鉄剤の経口投与よりも静脈注射の方が適している可能性が高い。
-
鉄剤の静脈注射は、経口投与と比べて、産後の大量出血にほとんど差がないかもしれない。また、輸血の必要性にもほとんど差がない可能性が高い。
-
重篤な副作用はまれであり、鉄剤の経口投与と比べて、鉄剤の静脈注射で増加することはない。
鉄欠乏性貧血とは?
鉄欠乏性貧血は、血液が全身に酸素を運ぶ能力に影響を与える疾患である。血液中の鉄分が不足することで発症する。血液中の鉄分が不足すると、全身の細胞に酸素を運ぶのに必要なヘモグロビンが十分に作られなくなる。鉄欠乏性貧血になると、疲労、脱力感、頭痛、めまい、息切れなどが起こる。
鉄欠乏性貧血を鉄剤で治療するには?
鉄剤による治療は、血液中の利用可能な鉄の量を増やすのに役立つ。したがって、貧血の原因が他になければ、ヘモグロビンの濃度を上げることができる。鉄剤による治療の手段には、主に静脈注射と経口投与の2種類がある。さらに、それぞれの投与法に、複数の製剤があり成分が異なるものも多くある。
何を調べようとしたのか?
妊娠中の鉄欠乏性貧血の治療において、鉄剤の経口投与よりも静脈注射の方が優れているかどうか、また、投与経路の違いによって生じる好ましくない影響について調べたいと考えた。
何を行ったのか?
鉄欠乏性貧血の妊婦において、鉄剤の静脈注射の効果を経口投与と比較して調べた利用可能なすべての研究を検索した。研究結果を比較および要約し、研究方法や規模などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。
何を見つけたのか?
鉄欠乏性貧血の妊婦3,939人を含む13件の研究を対象とした。ほとんどの研究では、鉄剤の静脈注射または経口投与をしてから3~6週間後の貧血状態を調査した。これら13件の研究は、2002年から2024年までの20年間に発表されたものである。
妊娠中の鉄欠乏性貧血の治療には、鉄剤の経口投与よりも静脈注射の方が優れている可能性が高いことがわかった。妊娠中に鉄剤を静脈注射すると、鉄剤の経口投与に比べて産後の重症の貧血がわずかに減るかもしれないが、その結果については非常に不確かである。産後の大量出血を防ぐ効果や輸血の必要性については、鉄剤の静脈注射と経口投与に差はないようだ。死亡を含む重篤な副作用はまれであり、そのような副作用が経口投与に比べて静脈注射で増えることはなさそうだ。
エビデンスの限界は何か?
鉄剤の静脈注射は、経口投与より妊娠中のヘモグロビン値や貧血をより改善するのは、ある程度確かである。しかし、治療による好ましくない影響については、研究によって報告方法が異なっていたため、信頼性は中程度から非常に低い。また、重篤な副作用はまれであり、鉄剤の静脈注射が経口投与よりもリスクが高いかどうかを確実性を持って結論づけることは難しい。
本エビデンスはいつのものか?
このエビデンスは、2024年3月現在のものである。
《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳[2025.04.03]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD016136》