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SARS-CoV-2感染者を診断するのに、(RNA抽出・精製を事前に行ったRT-PCR検査に代わる)検査室で行う分子検査はどの程度正確なのか?

要点

* TMA検査(逆転写酵素とRNA合成酵素を利用した、核酸増幅検査)と、RNA(ほとんどの生物学的機能に必須な分子)を抽出・精製する工程を省けるように特別に設計された市販のRT-PCR検査(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を利用した、核酸増幅検査)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者を特定するために、RNAの抽出・精製を事前に行うRT-PCR検査に取って代わるのに十分な精度があると思われる。しかし、エビデンスには若干の限界があるため、これらの結果は慎重に解釈・使用する必要がある。

* 他の検査室で行う分子検査の精度は、RT-PCR検査の代替検査として行うには、世界保健機関(WHO)が推奨する基準を下回っているか、信頼できる結論を導き出すのに十分な量のエビデンスがない。

* 評価した検査から得られた精度に関するデータを同じ技術を用いた他ブランドの検査に外挿することは、解析した主な検査手法がそれぞれ高精度だったブランドの検査によって占められていたため、困難である。実際の臨床現場におけるこれらの検査については、さらなる評価が必要である。

SARS-CoV-2感染者を特定するための、検査室で行う分子検査にはどのようなものがあるか?

検査室で行う分子検査の目的は、SARS-CoV-2感染を確認または除外することである。RT-PCR検査の代替法は、検査室での検体処理に必要な工程を最小限に抑えたり、より少ない資源で同じ有効な結果を得るために開発されてきた。このレビューでは、製造業者によって商業的に開発され、専門家向けの使用説明書が提供されている検査に焦点を当てた。

なぜこの問題が重要なのか?

SARS-CoV-2感染が疑われる人は、外出を避けたり治療を受けたり、接触した人に知らせたりするために、感染しているかどうかを知るべきである。SARS-CoV-2の感染を診断できなかった場合、感染が拡大するリスクがあり、予防の機会を逃すことになる。SARS-CoV-2に感染していないにもかかわらず感染と診断した場合、不必要な隔離や濃厚接触者の検査につながる可能性がある。現在、SARS-CoV-2感染を確認する検査は、RT-PCRと呼ばれる検査室で行う分子検査に頼っている。これには専門機器が必要で、結果が出るまでに24時間かかることもある。もし、RT-PCR検査に取って代わるような、より短時間で、あるいは容易に入手可能な資源を使用する検査法が十分に正確であれば、実施可能な検査数が増え、より迅速な診断が可能になり、人々はより迅速に適切な処置をとることができるようになるだろう。

知りたかったこと

RT-PCR検査と比較して、商業的に開発された検査室で行う他の分子検査がSARS-CoV-2感染の診断に十分正確かどうかを知りたかった。

実施したこと

RT-PCR検査の工程を一部省略または変更したRT-PCR検査を使用してSARS-CoV-2感染検査を受けた人(または検体)を対象に、従来のRT-PCR検査も行っている研究を探した。

わかったこと

RT-PCR検査の代替法を評価した105件の評価をレビューに含めた。主な結果は74,753検体に基づいており、このうち7,517検体でSARS-CoV-2感染が確認された。ほとんどの評価(27/105)は、RNA抽出・精製を省略または変更するように特別に設計された検査に関するものであった。105件の評価のうち24件は、温度の変化をくり返して核酸を増幅させる方法ではなく、一定の温度で行う検査(等温核酸増幅法)に関するものであった。105件の評価のうち24件は、これら2種類の代替法を組み合わせた検査に関するものであった。

主な結果

SARS-CoV-2かどうかを診断するためのWHOの許容基準を満たしたのは、RNAの抽出・精製を省略または変更するように特別に設計された検査と、RNA抽出を伴うTMA検査(等温核酸増幅法の一つ)のみであった。例えば、1,000人のうち、50人(5%)がSARS-CoV-2に感染している集団があったとすると:

* RNA抽出・精製を省略または変更するように特別に設計された検査では:

- 51人がSARS-CoV-2陽性となる。このうち3人(6%)は、SARS-CoV-2ではない(偽陽性)。

- 949人がSARS-CoV-2陰性となる。このうち、実際はSARS-CoV-2に感染しているのは2人(0.2%)である(偽陰性)。

* RNA抽出を伴うTMA検査では:

- 55人がSARS-CoV-2陽性となる。このうち6人(10%)は、SARS-CoV-2ではない(偽陽性)。

- 945人がSARS-CoV-2陰性となる。このうち、実際はSARS-CoV-2に感染しているのは1人(0.1%)である(偽陰性)。

エビデンスの限界

ほとんどの研究では、検査を受けた参加者に関して、症状があったかどうか、あるいはSARS-CoV-2感染者の濃厚接触者であったかどうかといった情報は提供されていない。また、研究の大半において参加者の集め方に懸念があり、その結果、これらの検査の精度が過大評価されている可能性がある。加えて、SARS-CoV-2感染者ではないと判定するために用いられた検査法は、ほとんどの研究で信頼できるものではないと考えられ、その結果、これらの検査の精度が過小評価されている可能性がある。研究によっては、検査の製造業者が指示した使用方法に従っていないものもあった。同じ技術を使った検査でも、ブランドによって結果にばらつきがあった。

結果が意味すること

このレビューに含まれる研究は、SARS-CoV-2感染の診断において、RNA抽出・精製を事前に行うRT-PCR検査に代わる、あるいはそれを補完する検査室で行う分子検査として、2つの検査が十分に正確である可能性を示唆している:RNA抽出・精製を省略または変更するように開発されたRT-PCR検査、およびTMA検査(RNA抽出の工程は残した等温核酸増幅法)。RT-PCR検査に代わる他の検査を評価した研究は、数が少なく方法論的にも質が低かったため、その性能はさらなる研究によって評価されるべきである。さらに、これらの研究のデータは、ほとんどが前方視的ではなく過去に取得された検体に依存しているため、実際の臨床現場におけるこれらの検査のさらなる評価が必要である。また、特定の環境においてどの検査が最適であるかの判断は、診断の精度だけでなく、検査の複雑さ、結果が出るまでの時間、検査対象者の受容性、検査が使用される環境などの他の要因によっても左右される。

このレビューの更新状況

このレビューには、2022年10月31日までに発表されたエビデンスが含まれている。

訳注

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2024.11.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015618》

Citation
Arevalo-Rodriguez I, Mateos-Haro M, Dinnes J, Ciapponi A, Davenport C, Buitrago-Garcia D, Bennouna-Dalero T, Roqué-Figuls M, Van den Bruel A, von Eije KJ, Emperador D, Hooft L, Spijker R, Leeflang MMG, Takwoingi Y, Deeks JJ. Laboratory-based molecular test alternatives to RT-PCR for the diagnosis of SARS-CoV-2 infection. Cochrane Database of Systematic Reviews 2024, Issue 10. Art. No.: CD015618. DOI: 10.1002/14651858.CD015618.