全身投与のヤヌスキナーゼ阻害剤は、COVID-19の患者にとって有効な治療法か?

要点

入院患者におけるコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に対して、全身投与のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤は、死亡数が少なく、臨床的な悪化率が低いことから、有効な治療であると結論づける6件の研究を特定した。それらのエビデンスの確実性は中等度から高度であった。全身投与のJAK阻害剤の評価は13件の試験で進行中であり、さらに9件の試験では結果の公開待ちの状態である。それらの結果が利用可能になったときに、このレビューを更新して結論を変更する可能性がある。

JAK阻害剤とは何か?

JAK阻害剤は、時に問題となる免疫システムの特定の部分の活動を阻害する薬である。これらは経口投与(全身投与)され、通常、免疫系が身体そのものを攻撃する自己免疫疾患を患っている人が服用する。JAK阻害剤は吸入での投与も可能であるが、今回は対象としていないため、レビュー全体を通して「全身投与のJAK阻害剤」と表記した。

JAK阻害剤はCOVID-19をどのように治療するのか?

COVID-19では、時に免疫系が過剰に反応し、重篤な経過をたどることがある。JAK阻害剤は、免疫系の一部を阻害することで、臨床的な悪化を防ぐことができる。

何を知りたかったのか?

COVID-19の患者に対して、通常のケアに加えて全身投与のJAK阻害剤が、プラセボ(見た目や味は試験薬と同じだが有効成分が含まれていない治療薬)を使用、または使用しない通常のケアと比較して有効か、また好ましくない作用があるかどうかを検討した。特に下記に焦点をあてた:
- 治療後60日までのあらゆる原因による死亡数、または報告されていれば、それ以上における死亡数;
- 呼吸補助の必要性に基づいて、治療後に良くなったか、悪くなったか;
- 治療の副作用や入院中の感染症の発症。

実施したこと

COVID-19の患者において、全身投与のJAK阻害剤と通常のケアの併用、または通常のケアのみ(プラセボ有りまたは無し)での治療について報告している研究を検索した。研究結果を比較および要約して、エビデンスがどの程度信頼できるのかについて一般的に使用されている判断基準に基づいてエビデンスの確実性を評価した。

何がわかったのか?

COVID-19患者11,145人を対象とした6件の適切な研究を特定した。すべての試験は、全身投与のJAK阻害剤(バリシチニブ:4件の試験、トファシチニブ:1件の試験、ルキソリチニブ:1件の試験)と標準治療(プラセボ併用)を比較し、入院患者を対象に実施された。外来患者を対象とした研究は見つからなかった。ほとんどの参加者は低流量装置による酸素供給(鼻カニューレや酸素マスクなど)を必要とし(7,220人)、試験開始時に機械的換気(侵襲的人工呼吸管理)をしていた参加者はわずかであった(463人)。また、13件の進行中の研究と、完了または終了したが未発表の9件の研究を特定した。

主な結果

JAK阻害剤と標準治療の併用は、標準治療のみと比較して、おそらく28日目までのすべての原因による死亡を減少させ、また、60日目までのすべての原因による死亡を減少させる可能性がある。JAK阻害剤による治療が最も有効であると思われる参加者の一部(重症度による)を特定することはできなかった。全身投与のJAK阻害剤は、おそらく臨床状態の改善にはほとんど、または全く差がない可能性がある。臨床状態が悪化するリスクは、おそらく減少させると思われる。全身投与のJAK阻害剤は、おそらく副作用の発現率にほとんど、または全く差がなく、重篤な副作用の発現をおそらくわずかに減少させる。全身投与のJAK阻害剤は、入院中の感染症の発症率にほとんど、または全く差がない可能性がある。

エビデンスの限界

外来患者における全身投与のJAK阻害剤に関する現時点での研究は不足しているため、この集団でのCOVID-19患者におけるエビデンスは限られている。望ましくない作用、特に入院中の感染症に関しては、様々な方法で評価し、報告されている。

迅速なレビューのアプローチに従って、継続して検索を更新し、このエビデンスのギャップを埋めるための適格な試験を含めていく予定である。

レビューの更新状況

2022年2月までのエビデンスである。コクランCOVID-19試験登録情報を使用して、毎週新たに発表された研究をモニターしており、2022年4月の第1週までにこの情報源から特定されたすべての新しい試験を組み込んでいる。

訳注: 

《実施組織》堺琴美、阪野正大 翻訳[2022.07.12]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015209》

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