心臓手術に伴う出血治療におけるプロトロンビン複合体濃縮製剤

このレビューの目的は、プロトロンビン複合体濃縮製剤を心臓手術に伴う出血を予防するため安全に使用できるか最近のエビデンスについて評価を行うことであった。また、他の治療法と比較した場合、死亡および他の重篤な合併症を減少させることができるかについても評価を行った。

背景

複雑な心臓手術に伴う出血は、管理することに挑戦し続けることができる。血液凝固経路は複雑で、心臓バイパス装置を使用されていると、血液中の特定の成分の減少が起きる。バイパス時間に依存して凝固因子が著しく減少することがある。新鮮凍結血漿とプロトロンビン複合体濃縮製剤が、これらの凝固因子を代替えする唯一の認識された方法である。新鮮凍結血漿は250から300mLがバッグに入っており、使用することで総血液量を増やすことができるが、心臓に余分な負担をかける可能性がある。プロトロンビン複合体濃縮製剤は粉末製剤であり、より少ない容量で溶解し投与する。希釈された新鮮凍結血漿はゆっくりと注入されるのに対し、この製剤は凝固因子が濃縮され迅速に投与されて速かに作用する。遺伝子組換え血液凝固第Ⅶa因子(rFⅦa)は、ヒトから得られたものではなく、人工的に作製されたもう一つの血液凝固因子である。出血が血液製剤で止めることができない程酷い時に用いられる。プロトロンビン複合体濃縮製剤がrFⅦaに対しどれ程有効かについて比較した。

研究の特徴

本エビデンスは2021年4月20日までのアップデートされたものである。心臓手術を受けた計4,993人の参加者を対象とした18件の研究が含められた。これら18件の研究のうち、2件はパイロットランダム化比較試験(RCTs)で、16件は非ランダム化試験(NRSs)であった。NRS研究のうち13件は成人を、3件は小児を対象としたものであった。使用されたプロトロンビン複合体濃縮製剤は、3因子製剤(3つの凝固因子を含む)と4因子製剤(4つの凝固因子を含む)の2種類であった。これらプロトロンビン複合体濃縮製剤は、11件の研究では標準治療と、5件の研究ではrFⅦa製剤と比較され、残りの2件の研究では比較対照が設定されていなかった。

凝固因子製剤は、9件の研究では手術室で、3件の研究では集中治療室および手術室で投与され、残りの6件の研究では記載がなかった。患者がすでに服用している抗凝固薬による作用を回復するために凝固因子製剤を使用した研究は除外した。

主な結果

プロトロンビン複合体濃縮製剤と標準治療との比較

プロトロンビン複合体濃縮製剤は新鮮凍結血漿と比較して、全体的に赤血球輸血量(輸血単位および輸血頻度の両方)を減少させた。RCTsの結果では、胸部ドレーンからの排出量(出血量)は減少しない可能性があった。血栓、死亡、集中治療室の滞在日数、透析の必要性の報告結果は、RCTsとNRSsの両方で差がなかった。RCTsのエビデンスの質は「中程度」から「低」で、NRSのエビデンスの質は「低」から「非常に低」であった。

プロトロンビン複合体濃縮製剤とrFⅦaの比較

プロトロンビン複合体濃縮製剤は、rFⅦaと比較して赤血球輸血量が大きく減少した。このエビデンスの質は「中程度」であった。レビューした残りの結果について、分析できた研究は2件のみであった。これらの研究では、血栓、死亡、ドレーンへの出血量、集中治療室の滞在日数、および透析の必要性の結果に差がないことを示していた。差がなかったのは、研究参加者数が少なかったのでこれらの発生率の低い結果を検出できなかった可能性がある。これらの結果に関するエビデンスの質は「非常に低」であった。

エビデンスの質

RCTsにおいては、バイアス(偏り)のリスクは低かったが、エビデンスの全体的な質が、サンプル数が少なかったために「高」よりむしろほとんどの結果において「中程度」と評価された。残りの結果については、結果に寄与したRCTが1件のみであったため、エビデンスの質は「低」と評価された。

NRSsに関するエビデンスの質は「低」または「非常に低」であった。後ろ向き研究の多くには、最終結果に影響を及ぼす可能性のある重大な交絡があった。

結論

プロトロンビン複合体濃縮製剤は、標準治療と比較した場合、心臓手術に伴う出血問題において、赤血球輸血率(赤血球輸血量および頻度)を低下させる可能性が示唆された。その他の結果のどれも差が認められなかったが、結果の差を検出するための研究参加者数が不十分であった可能性があった。

訳注: 

《実施組織》小泉悠 翻訳、星進悦 監訳[2023.01.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013551.pub2》

Tools
Information