成人の喘息患者に対して管理された運動と教育のプログラム(いわゆる呼吸リハビリテーションとして知られるもの)は通常の治療と比較してどのような効果があるか?

要点

喘息患者が運動と教育の管理されたプログラム(いわゆる呼吸リハビリテーションとして知られる)に参加すると、通常治療を受けた患者と比べてプログラム終了直後はより壮健になり(より歩行できる)、よりウェルビーイング(訳注:身体的、精神的、社会的に良好な状態)になることを発見した。しかし、1年後までこのような効果が持続するかは定かではない。

エビデンスが乏しいため、喘息発作や入院の割合、不安や抑うつ、あるいは身体活動レベルにおける呼吸リハビリテーションの効果は不明である。

成人喘息患者に対する呼吸リハビリテーションの真の効果をより正確に推定するためには、より大規模で入念に計画された研究が必要である。

喘息とは?

喘息とは、気道が炎症を起こし、狭窄し、余分な粘液を産生する一般的な肺の病気である。喘息患者は咳、喘鳴、胸部圧迫感、息苦しさを経験し、最も重症な患者では日常生活に支障をきたすようになる。

喘息は治癒できないが、症状をコントロールすることはできる。様々な薬で症状を抑えることができる一方で、運動もまた症状を抑えることができる。しかし、喘息患者の中には包括的な運動プログラムを実施することが困難な人も存在するだろう。

呼吸リハビリテーションとは?

管理された運動と教育のプログラム(呼吸リハビリテーションと呼ばれている)は慢性肺疾患患者に通常は行われ、呼吸状態、健康とウェルビーイングの改善に寄与する。このようなプログラムは病院、外来クリニック、時には在宅に拠点が置かれるだろう。

呼吸リハビリテーションは多くの慢性肺疾患に推奨される標準的治療である。しかし、成人喘息患者における効果はより明らかではない。

何を見つけ出したかったか?

呼吸リハビリテーションを行わない通常治療と比較して、呼吸リハビリテーションが成人喘息患者の身体的健康、喘息症状のコントロール、ウェルビーイングにどのような影響を与えるか知りたかった。また、重篤な喘息発作や入院の割合、メンタルヘルス(不安や抑うつ)、筋力、身体活動レベル、(痰や血液の中の)炎症の指標に対する影響についても知りたかった。最後に、どんな望ましくない影響があるか知りたかった。

何を行ったのか?

成人喘息患者を対象に、呼吸リハビリテーションと通常治療を比較した研究を検索した。治療は少なくとも4週間継続し(または8週間以上)、有酸素運動(ウォーキングやサイクリング等)と教育、あるいは自己管理を含んだものでなければならない。

適合するすべての研究の結果を比較し要約して、研究方法や規模等によりエビデンスの信頼性を点数化した。

何が見つかったか?

成人喘息患者894人を含む10件の研究が検索された。

研究の規模は24人から412人までであった。

ほとんどの研究はヨーロッパで実施された。

報告されているように、ほとんどの研究参加者は女性であり、平均年齢は27歳から54歳であった。

1件の研究では、特に重症な喘息患者を対象としていた。別な研究では、特に喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の両方の特徴を重複して持つ患者を対象としていた。

呼吸リハビリテーションの方法は研究によって様々であった。入院患者に対するプログラムは3週間から4週間、外来患者に対するプログラムは8週間から12週間継続していた。

運動や教育の具体的な方法については各研究間で様々であった。

主な結果

呼吸リハビリテーションは、プログラム終了直後に体力を大きく向上させ、その結果、通常の治療を受ける人よりも6分間で平均80メートル遠くまで歩くことができるようになる可能性がある。1年後まで測定した身体的健康にはほとんど効果が見られなくなる可能性がある。

呼吸リハビリテーションは通常治療と比較して、プログラム終了直後、あるいは1年後までに、喘息コントロールにわずかな改善をもたらすか、あるいはほとんど影響を与えない可能性がある。

呼吸リハビリテーションは、プログラム終了直後セントジョーズ呼吸器疾患質問票(呼吸に関する健康の質における質問紙)で測定するとウェルビーイングにおそらく大きな改善をもたらす。QOL(生活の質)の測定法の違いによって結果は若干異なる可能性がある。効果は1年間持続する可能性があるが、結果は非常に不確実である。

喘息QOL質問票を用いた場合、プログラム終了後もしくは9か月後までの追跡期間では、ウェルビーイングへの効果はほとんど見られなかった。

喘息発作や入院の割合、不安や抑うつの指標、四肢筋力、身体活動レベル、血液や痰の中の炎症指標に対する呼吸リハビリテーションの効果を決定づけるエビデンスは非常に限られていた。

1件の研究データから、呼吸リハビリテーションは望ましくない影響や有害な影響はないことが示唆された。

エビデンスの限界

身体的健康、ウェルビーイング、喘息コントロールなどの結果に関するエビデンスの信頼度は、いくつかの研究における不明確な方法に関する懸念、参加者や評価者(または両方)が評価される治療を意識することにより結果に影響を与える可能性、および呼吸リハビリテーションの実施方法が多様なことから、限定的である。

このエビデンスは2021年5月に更新された。

訳注: 

《実施組織》 久保田純平、星進悦 翻訳[2022.10.9] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013485.pub2》

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