主要メッセージ
• 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に対して過敏症のある人における治療選択肢としてのアスピリン減感作(ATAD)(過敏症を誘発する薬(アスピリン)を少しずつ体内に取り入れ、アスピリンに対する耐性を誘発する方法、すなわちアスピリンに徐々に慣らしていく方法)の利益と有害性は、確実なエビデンス(科学的根拠)が不足しているため、不明なままである。
• ATAD療法は生活の質の向上につながるかもしれないが、そのエビデンスは小規模な研究から得たものである。
• 今後の研究では、手術や副腎皮質ステロイド(薬)(以下,ステロイド)使用の必要性に対し、アスピリン治療(アスピリン減感作療法)の明確な効果を実証するために、大規模な研究を行うべきである。
NSAID過敏喘息(NSAID不耐性、アスピリン喘息)とは?
NSAID過敏喘息(N-ERD)とは、アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDsによって誘発される過敏症であり、鼻ポリープ(鼻茸、鼻や副鼻腔の粘膜の良性の腫瘍)や喘息を伴うまたは伴わない慢性の鼻副鼻腔炎(12週間以上続く鼻と副鼻腔の炎症)を合併している。N-ERDがある人にNSAIDを使用すると、30分から120分以内に鼻水、鼻閉(鼻づまり)、息切れが起こり、さらには舌や喉の腫れが生じる。過敏症状は軽度の場合もあれば重度の場合もある。
NSAID過敏喘息はどのように治療されるのか?
N-ERDがある人は慢性鼻副鼻腔炎や喘息(またはその両方)に罹患していることが多い。ATAD療法は、重症の慢性鼻副鼻腔炎の人、薬物治療 (経口ステロイド (プレドニゾンなどの炎症を抑える強力な薬)の連用投与 (薬を続けて服用している))を要する喘息の人、または慢性鼻副鼻腔炎で手術を繰り返している人に対して、過敏症状を軽減するのに効果があるかもしれない。
知りたかったこと
ATADがN-ERDのある人にとって有効かつ安全な治療法であるかどうか確かめたかった。慢性鼻副鼻腔炎がある人において、ATADが生活の質や喘息のコントロールに影響を及ぼすかどうか、あるいはATADによって(経口)ステロイド服用(プレドニンなどは、副作用がある可能性がある)の必要性と手術の必要性が減少するかどうか知りたかった。
実施したこと
アスピリン(経口投与または鼻に直接噴霧)とプラセボ(偽薬、活性成分を含まない薬)を比較した研究を検索した。喘息または慢性鼻副鼻腔炎、あるいはその両方を合併するアスピリン不耐症(過敏症)の確定診断を受けた成人を対象とした。特定した研究の結果を比較、要約し、エビデンスの量と質に基づいてエビデンスの信頼性の度合を評価した。
わかったこと
合計211人を対象とした5件の研究を特定した。これらの研究は専門医療センターで実施され、N-ERDと確定診断された人を対象にATADとプラセボを比較した。すべての研究において、治療は経口投与で行われていた。研究参加者全員が鼻ポリープを伴う慢性鼻副鼻腔炎であった。特定した4 件の研究の参加者には喘息もあり、2件の研究では参加者に鼻ポリープの手術歴があると報告していた。研究結果は治療(減感作)6ヵ月後のデータで報告されており、1 件の研究が36ヵ月後のデータを報告していた。1件を除くすべての研究が、研究資金について報告していた。
6ヵ月間の治療後、毎日アスピリンを服用するとプラセボと比較して生活の質が向上する可能性があることがわかった(85人を対象とした3件の研究に基づく)。この治療(ATAD療法)によって喘息のコントロールに何らかの影響を及ぼすか、望ましくない効果をもたらすか、鼻(鼻腔)の空気の流れに影響を及ぼすか、点鼻薬や喘息吸入の使用量(投与量)が変更になるか、または鼻や肺機能症状の変化に影響を及ぼすかは不明である。6ヵ月後の鼻ポリープ症状について報告した研究はなかった。
1件の研究で、アスピリンを36ヵ月間毎日服用することで生活の質が向上する可能性があると報告しているが、重篤な副作用の発生、鼻ポリープの大きさ、手術(再手術)の必要性には、ほとんど影響しないまたはまったく影響しない可能性があると報告していた。副作用の報告はなかった。この研究では36ヵ月後のその他の研究結果は報告していなかった。
アスピリンの使用(服用)頻度と治療期間についての結論は出せない。研究に参加した人は、喘息や慢性鼻副鼻腔炎の治療に他の薬を使用している可能性があり、それが結果に影響を及ぼした可能性がある。
エビデンスの限界は?
生活の質の向上に関するエビデンスにはほとんど信頼が置けない。アスピリン減感作による喘息コントロールあるいは副作用発生についてのエビデンスは、非常に不明瞭である。研究参加者は、自分がどの治療を受けているかを認識していた可能性がある。さらに、研究は比較的小規模であった。
このエビデンスはどれくらい最新のものか?
エビデンスは2023年2月時点のものである。
《実施組織》 バベンコ麻以 翻訳、小林絵里子 監訳 [2025.02.14]《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013476.pub2》