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出産後の大量出血に対する治療に最適な薬剤は何か?

論点
出産時に母親が死亡する理由で最も多いのは、500mL以上の出血と定義されている「分娩後異常出血」と呼ばれる大量出血である。この緊急事態は通常、子宮が収縮しないために、胎盤に血液を送り込んでいた血管を閉じないことで生じる。世界保健機関(WHO)は、子宮がより効果的に収縮する薬(子宮収縮薬)を投与して、大量出血のリスクを減らすことを推奨している。これらの薬は出産直後の母親に投与されるが、それでも大量の出血を経験する女性もおり、さらなる治療が必要となることがある。

重要である理由
子宮収縮薬は、予防がうまくいかず、大量の出血が生じた場合の主な治療法である。用いることが可能な子宮収縮薬には、オキシトシン、カルベトシン、エルゴメトリン、ミソプロストール、注射用プロスタグランジン、これらの組合わせなどがあり、効果や副作用の面で違いがある。このコクラン・レビューの目的は、出産後の大量出血を治療するために、副作用が少ない最適な薬剤を特定することである。

得られたエビデンス
2020年5月にエビデンスを検索したところ、3,738人の女性を対象とした7件の研究が特定された。対象となった女性は主に病院で経腟的に出産し、産後の出血を防ぐために子宮収縮薬を投与されていた。これらの研究で大量出血の治療に使用された薬剤は、ミソプロストール(舌の下で溶ける錠剤、経口剤、あるいは直腸に入れる座薬)、オキシトシン(静脈や筋肉内に注射する)、ミソプロストールとオキシトシンの併用、シントメトリン®(エルゴメトリンとオキシトシンの合剤で筋肉内に注射する)とオキシトシンの併用であった。

1,787人の女性を対象とした2件の研究では、出産後の大量出血の初期治療として、ミソプロストールとオキシトシンを比較していた。ミソプロストールは、オキシトシンと比較して輸血を必要とするリスクをおそらく増加させ、また、治療開始後から出血が止まるまでの間に1,000mL以上の追加出血が生じるリスクを増加させる可能性がある。入手可能なデータからは、500mL以上の追加出血、大量出血に関連した母体の死亡または重症化、出血を止めるための子宮収縮薬の追加投与の必要性などの結果について、多くを知ることはできなかった。副作用の面は、ミソプロストールはオキシトシンに比べて、嘔吐のリスクが高く、発熱の発生率も高くなる可能性がある。

1,881人の女性を対象とした4件の研究では、ミソプロストールとオキシトシンを併用した場合と、オキシトシン単独の場合を比較していた。ミソプロストールとオキシトシンの併用は、オキシトシンを単独で投与した場合と比較して、追加の子宮収縮薬の使用や輸血の必要性についてほとんど差がなかった。500mL以上の追加出血、1,000mL以上の追加出血、および大量出血に関連する母体の死亡または重症化を減少させるのに、これらの薬剤のうちどれが最も効果的であるかを特定することはできなかった。副作用の面では、ミソプロストールとオキシトシンの併用の方が、発熱と嘔吐のいずれも発生率が高かった。

64人の女性を対象とした1件の試験では、ミソプロストールをシントメトリン®とオキシトシンの併用と比較していた。利用可能なエビデンスの確実性が非常に低度であったために、その中で最も効果の高い薬剤を特定することはできなかった。

我々は、ミソプロストールとオキシトシンの併用とミソプロストール単独についても比較した。これらの薬剤は、個々の研究において直接比較されているものではない。しかし、両剤ともオキシトシンとの比較が行われていたため、間接的に比較することができた。ミソプロストールとオキシトシンの併用は、おそらく輸血のリスクを低減し、1,000mL以上の追加出血のリスクを低減する可能性があるが、ミソプロストール単独と比較して、嘔吐についてはほとんど差がない。一方、500mL以上の追加出血、大量出血に関連した母体の死亡または重症化、子宮収縮薬の追加使用、発熱などの評価項目については、多くを知ることができない。

結果が意味すること
オキシトシンはミソプロストールよりもおそらく効果的であり、副作用も少ない。ミソプロストールをオキシトシンと一緒に投与しても、おそらく効果は上がらず、副作用は増えるだろう。産後出血の第一選択薬として使用されているほとんどの利用可能な薬のエビデンスは限られており、現在使用されている薬の中にはエビデンスがないものもある。

訳注

《実施組織》 杉山伸子、増澤祐子 翻訳 [2021.11.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012754.pub2》

Citation
Parry Smith WR, Papadopoulou A, Thomas E, Tobias A, Price MJ, Meher S, Alfirevic Z, Weeks AD, Hofmeyr GJ, Gülmezoglu AM, Widmer M, Oladapo OT, Vogel JP, Althabe F, Coomarasamy A, Gallos ID. Uterotonic agents for first-line treatment of postpartum haemorrhage: a network meta-analysis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2020, Issue 11. Art. No.: CD012754. DOI: 10.1002/14651858.CD012754.pub2.