拡大放射線療法は局所進行子宮頸癌による死亡を減らせるか、治療に伴う副作用は何か

論点
骨盤への放射線療法は、子宮頸癌の治療に行われる。しかし、傍大動脈リンパ節(胃体の中部と上部にある大血管に沿ったリンパ節)に拡がった癌は骨盤放射線療法の標的領域(照射野)の外側にあるため、骨盤放射線療法では治療できない。拡大放射線療法は、骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節の両方を含む領域を標的とする。つまり、傍大動脈領域を含むように照射野を拡大することによって、癌再発リスクを減らすことができる可能性がある。

現在の子宮頸癌の治療では、化学療法が放射線療法と同時に行われることが通常であり(同時併用化学療法)、この併用療法は同時化学放射線療法と呼ばれる。放射線療法を行っている間に化学療法を加えることによって、子宮頸癌が骨盤内に限局していると考えられる患者の生存率の改善が複数の試験で示されたことから、現在ではこれが標準治療となっている。それ以前の試験では各種治療法を骨盤放射線療法単独と比較しているが、同時化学放射線療法を受ける体力のある患者に対しては、現在では骨盤放射線療法単独を標準治療として考慮することはないであろう。また、拡大放射線療法を骨盤放射線療法と比較した試験結果を、現代の同時化学放射線療法に当てはめることもできないだろう。

本レビューの目的
局所進行子宮頸癌の患者では、傍大動脈領域を含めるために照射野を拡大すると子宮頸癌による死亡リスクが低下するのか、それによる悪影響はどのようなものか。

試験の特性
複数のデータベースをその作成開始から2018年8月まで検索し、5件の試験が対象基準に合致した。そのうち3件で拡大放射線療法と骨盤放射線療法の比較が行われていたが、現在の最良の標準治療である骨盤同時化学放射線療法と比較した試験はなかった。1件の試験では、拡大放射線療法と骨盤同時化学放射線療法が比較され、もう1件の試験では拡大同時化学放射線療法と骨盤同時化学放射線療法が比較されていた。

主な結果
拡大放射線療法を受けた患者は、骨盤放射線療法単独と比較して死亡率が低い可能性があり、おそらく子宮頸癌が傍大動脈リンパ節に再び出現する(再発する)可能性が低かった。しかし、拡大放射線療法は、他の部位への癌再発や重篤な副作用の発現頻度に関しては、ほとんどまたは全く差がなかったようである。

骨盤同時化学放射線療法は、局所進行子宮頸癌に対する現在の標準治療である。拡大放射線療法単独と骨盤同時化学放射線療法の比較では、骨盤同時化学放射線療法群のほうが、死亡率または再発率が低かった可能性があった。拡大放射線療法単独群は、傍大動脈リンパ節に再発する可能性が低く、治療中または治療後早期の有害事象も少なかった可能性がある。遅発性の有害事象に関しては両群間に明確な差はなかった。

骨盤同時化学放射線療法群と比べて、拡大同時化学放射線療法群のほうが死亡や癌進行が少なかったかどうかは明らかではない。傍大動脈リンパ節への癌再発や重度の副作用が発現する可能性に関して両群間に明確な差はなかった。

エビデンスの確実性
拡大放射線療法単独と骨盤放射線療法単独を比較した結果に関するエビデンスの確実性は中等度であった。拡大放射線療法と骨盤同時化学放射線療法との比較においても、生存率および副作用に関するエビデンスの確実性は中等度であった。傍大動脈リンパ節への再発に関するエビデンスの確実性は低かった。拡大同時化学放射線療法と骨盤同時化学放射線療法の比較に関する全結果のエビデンスに関しては、バイアスのリスクが高いことへの懸念と、患者数が非常に少ない試験1件の結果であったことから、確実性は非常に低かった。

結論
骨盤放射線療法単独と比較して、拡大放射線療法が全生存率を改善し、傍大動脈リンパ節再発リスクを低下させるであろうということの確実性は、中等度と考えられる。しかし、現在、骨盤放射線療法単独は同時化学放射線療法を受ける体力がある患者の標準治療としては考えられないため、このような結果は慎重に検討されるべきであり、現代の治療法に当てはめることはできない。

骨盤同時化学放射線療法は死亡や癌進行のリスクを抑えると考えられ、拡大放射線療法単独ではなく、骨盤同時化学放射線療法の使用にはエビデンス(低~中等度の確実性)による裏付けがある。治療中に望ましくない副作用を経験する可能性は拡大放射線療法よりも骨盤同時化学放射線療法を受けた患者のほうが高かった。拡大同時化学放射線療法と骨盤同時化学放射線療法を比較したエビデンスは、アウトカムに関する確実性が非常に低く、生存率の改善については明らかではない。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)中村奈緒美 翻訳、喜多川亮(東北医科薬科大学産婦人科学教室)監訳 [2019.01.13] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD012301》

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