レビューの論点
ビタミンDは喘息発作を予防するか、また喘息の症状コントロールを改善するか。
背景
血中ビタミンD値が低いと小児および成人喘息患者において喘息発作のリスクが上昇することが知られている。ビタミンDが小児および成人において喘息発作を予防し喘息症状コントロールを改善するかを調べる臨床試験がいくつか実施されているが、科学的に妥当なデザインの研究結果を全体として評価したものはない。
対象とした試験
2016年1月までに発表され、計435人の小児を対象とした7試験および計658人の成人を対象とした2試験のレビューを実施した。このうち22人の小児を対象とした1試験および計658人の成人を対象とした2試験について、重度の喘息発作の発生率の解析に用いた。試験期間は4~12カ月で、参加者の大多数は軽度または中等度の喘息患者であった。すべての試験においてビタミンDをプラセボと比較している。
主な結果
ビタミンD投与を受けた患者は経口ステロイド投与を要する喘息発作が減少した。1人あたりの年平均喘息発作回数は、ビタミンD投与により0.44回から0.22回に減少した(質の高いエビデンス)。ビタミンDは急性喘息発作による入院のリスクを6%から約3%に低下させた(質の高いエビデンス)。
ビタミンDは肺機能または日常の喘息症状に対する効果はほとんどなかった(質の高いエビデンス)。試験を行った用量ではビタミンDによる重篤な有害事象のリスクは増加しなかった(中程度のエビデンス)。
レビューから得られたこれらの知見はすべて、質の高いエビデンスであると判断した試験を根拠にしている。
結論
ビタミンDは重度の喘息発作を予防する可能性がある。臨床上の推奨として確定するためには、頻回の重度喘息発作を認める小児および成人について、さらに試験を行う必要がある。
主に軽度から中等度の喘息患者を対象とした適切な数の臨床試験のメタアナリシスの結果、ビタミンDは重度の喘息増悪のリスクおよびそれによる入院等を低減させることが示唆される。これらの効果が試験開始時点でビタミンDレベルが低い患者に限定されているかどうかはまだ明らかになっていない。個々の患者データによるメタアナリシス等の研究によりこの問題を明らかにする必要がある。頻回の重度喘息増悪を認める小児および成人については標本が不十分である。ビタミンDがこれらの患者群に対しても重度の喘息増悪のリスクを低下させるかについてはさらに試験を要する。
成人および小児の喘息患者に対し、ビタミンD投与により喘息の増悪の予防および喘息コントロール改善を目的とした臨床試験がいくつか実施されているが、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験に限定してのメタアナリシスは不足している。
ビタミンDおよびそのヒドロキシル化代謝産物の投与による重度の喘息増悪(副腎皮質ステロイドの全身投与治療を要する状態)のリスク低下効果および喘息症状コントロールの改善効果を評価すること。
Cochrane Airways Group Trial Registerおよびその参考文献一覧を2016年1月まで検索した。追加で臨床試験を実施したか著者に確認した。 最終検索日:2016年1月
成人および小児の喘息患者を対象としたビタミンDに関する二重盲検、ランダム化、プラセボ対照試験で、喘息増悪のリスクまたは喘息症状のコントロールのいずれかもしくは両方を評価したもの。 データ収集と解析
2名のレビュアーが研究対象論文の選定、データの抽出、バイアスのリスク評価を独立して実施した。欠測データは可能な場合著者から入手した。結果は95%信頼区間(CI)で報告した。
計435人の小児を対象とした7試験および計658人の成人を対象とした2試験を主要解析の対象として組み入れた。このうち、22人の小児を対象とした1試験と計658人の成人を対象とした2試験を重度の喘息増悪の発生率の解析に用いた。試験の実施期間は4~12カ月で、患者の大多数は軽度から中等度の喘息を有していた。ビタミンD投与により、副腎皮質ステロイドの全身投与を要するような増悪の発生率は低下し(率比(RR) 0.63、95%CI 0.45~0.88、N=680、3試験、質の高いエビデンス)、緊急治療室入室または入院を要する増悪の発生率も低下した(オッズ比(OR) 0.39、95%CI 0.19~0.78、追加治療を要した患者27人、N=963、7試験、質の高いエビデンス)。予測1秒量に対する%に対する効果はなく(平均差(MD) 0.48、95%CI -0.93~1.89、N=387、4試験、質の高いエビデンス)、喘息コントロールテストのスコアに対する効果もなかった(MD -0.08、95%CI -0.70~0.54、N=713、3試験、質の高いエビデンス)。ビタミンD投与は重篤な有害事象のリスクに影響しなかった(OR 1.01、95%CI 0.54~1.89、N=879、5試験、中程度のエビデンス)。低用量および高用量のビタミンD投与を比較した1試験で、各群1例ずつ高カルシウム尿症が発現した。他の試験ではビタミンD投与に起因する可能性がある有害事象はなかった。試験開始時点のビタミンDレベルによって重度の増悪のリスクに対するビタミンDの効果に影響が出るかどうかを検討するサブグループ解析は、適切な非集計データが得られなかったため実施しなかった。2試験はバイアスリスクが高いと評価されたため、上記で報告した解析からは除外した。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/ ) 橋本仁 翻訳、[2016.09.08] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公 開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。