成人重篤患者に対するグルタミン補充

グルタミンは非必須アミノ酸の一種で、健康人の体内に豊富に存在している。重篤な患者や侵襲の大きい手術後に、筋肉および血漿中のグルタミン値が低下することを報告した研究があり、こうした状態では体内のグルタミン消費量が増大することを示唆している。この10年間で、重篤な疾患を有する患者または術後患者を対象にグルタミン補充の効果を検討する臨床試験が複数実施されているが、この臨床的エビデンスに関するシステマティック・レビューから、これらの患者にグルタミンを補充することによって感染率および死亡率を減少させる可能性が示唆された。しかし、最近行われた大規模臨床試験2件(2011年と2013年に発表)では、重篤な疾患を有する患者に対するグルタミン補充の有効性は認められなかった。

本レビューでは、2013年5月時点で入手できた論文を検索し、重篤な疾患を有する成人患者または侵襲の大きい手術後の成人患者を対象としたグルタミン補充と非補充、それぞれのアウトカムを比較した研究を選択した。本レビューには、53件のランダム化比較試験(RCT)に関する57本の論文を組み入れた。これら53件の研究には、合計4671例の重篤疾患を有する、または侵襲の大きい待機手術を受けた患者が登録していた。死亡リスク、集中治療室管理日数、および副作用の発現について、グルタミン補充群と非補充群との間に統計学的な有意はみられなかった。しかし、グルタミン補充群の感染性合併症リスクは、非補充群のリスクの79%であった。すなわち、感染1症例を予防するためには患者12人にグルタミン補充する必要があることを意味する。感染性合併症についてのエビデンスの質は中等度であったため、この結果の解釈には慎重を期す必要がある。このアウトカムのファンネルプロットからは、非補充群に肯定的なアウトカムを示した小規模の研究は公表されていないことが考えられるため、さらなる研究の実施によって、このアウトカムから推定される効果に大きな影響が生じる可能性が高い。本レビューは、重篤な患者または手術患者の平均在院日数が、グルタミン補充群では非補充群よりも3.46日短縮したことも示した。研究間の異質性が高いことから、この結果もまた慎重に解釈すべきである。人工呼吸器使用平均日数も、グルタミン補充群では非補充群よりも0.69日短縮したことが、本レビューから判明した。

著者の結論: 

本レビューは、重篤な患者または手術後の患者に対するグルタミン補充により、感染率が低減し人工呼吸器使用日数が短縮することを示す中等度のエビデンス、および在院日数が短縮することを示す質の低いエビデンスが見出された。しかし、死亡リスクおよびICU収容日数に対する効果はほとんどないか、全くないと考えられる。重篤な副作用のリスクに対する影響は不明確であった。全般的なバイアスのリスクが高いこと、出版バイアス可能性、および対象とした研究間の「中」から「大」の異質性を考慮すると、本レビューにおけるエビデンスの強さは低下した。

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背景: 

グルタミンは非必須アミノ酸の一種で、健康人の体内に豊富に存在している。重篤な疾患を有する患者や大手術の後では血漿中グルタミン濃度が低下するとの研究報告があるが、これは、極度のストレス環境では、ある条件下でグルタミンが必須アミノ酸になる可能性を示唆している。この10年間で、重篤な疾患を有する患者または術後患者を対象にグルタミン補充の効果を検討する臨床試験が複数実施されているが、エビデンスに関するシステマティッック・レビューから、グルタミン補充は重篤な疾患を有する患者の感染率および死亡率を減少させる可能性が示唆された。しかし、最近の大規模ランダム化比較試験(RCT)2件では、重篤な疾患を有する患者に対するグルタミン補充の有効性は認められなかった。

目的: 

本レビューの目的は以下である。

1.重篤な成人患者および侵襲の大きい術後の成人患者に対するグルタミン補充の効果を、感染率、死亡率、および他の臨床上意義のあるアウトカムの観点から評価すること。

2.異なる患者集団および異なる栄養補充経路の潜在的な異質性を検討する。

検索方法: 

Cochrane Anaesthesia Review Group (CARG) Specialized Register、コクラン・ライブラリのCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)(2013年第5号)、MEDLINE(1950年~2013年5月)、EMBASE(1980年~2013年5月)、Web of Science(1945年~2013年5月)を検索した。

選択基準: 

重篤な疾患を有する成人患者または侵襲の大きい待機手術を受けた成人患者を対象に、グルタミン補充と非補充またはプラセボとを比較し検討したRCTまたは準RCTを選択した。クロスオーバー試験は除外した。

データ収集と分析: 

2名の著者が独立して、標準化データ抽出フォームを用いて、組み入れた各研究から関連のある情報を抽出した。感染性合併症、死亡率、罹病率の各アウトカムには、集約尺度としてリスク比(RR)を用い、95%信頼区間(CI)を付して記述した。適切であると判断した場合は、有効性に関する治療必要数(NNTB)および有害性に関する治療必要数(NNTH)を算出した。平均差(MD)として95%CIを併記し連続データを示した。

主な結果: 

検索により、1999本の論文を同定した。そのうち53件の研究(57本の論文)が選択基準を満たした。組み入れた53件の研究には、重篤疾患を有する、または大規模な侵襲の大きい待機手術を受けた参加者が合わせて4671例登録していた。バイアスのリスク可能性を、7つのドメインで解析した。10件の研究では、全ドメインのバイアスのリスクを「低」と評価した。33件の試験(参加者2303例)から、院内感染性合併症のデータを得た。これらのデータを統合した結果、グルタミン補充は、重篤疾患を有するまたは重大な侵襲の大きい待機手術を受けた成人患者の感染性合併症発症率を低減した(RR:0.79、95%CI:0.71~0.87、p=0.00001、 I2=8%、エビデンスの質は「中等度」)。36件の研究が、短期(入院中または1カ月未満)の死亡率を報告していた。これらの研究の死亡率を統合すると、グルタミン補充群と無補充群との間に統計学的な有意は認められなかった(RR:0.89、95%CI:0.78~1.02、p=0.10、I2=22%、エビデンスの質は「低」)。11件の研究が、長期(6カ月超)の死亡率を報告していた。これら11件の研究(参加者2277例)のメタアナリシスでは、RRが1.00であった(95%CI:0.89~1.12、p=0.94、I2=30%、エビデンスの質は「中等度」)。感染性合併症および死亡に関するサブグループ解析では、事前に設定した集団間に統計学的な有意は認められなかった。入院日数は36研究で報告されていた。入院日数は、コントロール群と比較し介入群の方が短かった(MD:-3.46日、95%CI:-4.61~-2.32、p<0.0001、I2=63%、エビデンスの質は「低」)。グルタミン補充群では、集中治療室(ICU)収容日数が若干延長したことが、22件の研究(参加者2285例)から示された(MD:0.18日、95%CI:0.07~0.29、p=0.002、I2=11%、エビデンスの質は「中等度」)。人工呼吸器管理日数(14研究、参加者1297例)は、コントロール群と比較し介入群で若干短かった(MD:-0.69日、95%CI:-1.37~-0.02、p=0.04、I2=18%、エビデンスの質は「中等度」)。副作用およびQOLに関しては、群間を示す明らかなエビデンスはなかったが、重篤な有害事象に関しては結果が不明確であり、またQOLを報告していた研究はほとんどなかった。バイアスのリスクの低い研究のみを対象とした感度分析から、グルタミン補充は入院日数を短縮させる効果がある(MD:-2.9日、95%CI:-5.3~-0.5、p=0.02、I2=58%、8研究)が、それ以外の全アウトカムに関しては、対象群間に統計学的な有意がみられないことが示された。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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