透析を必要としない慢性腎臓病患者に対するビタミンD製剤

腎機能が低下している人(慢性腎臓病、CKD)は血中のカルシウム濃度およびリン濃度が変化する。腎臓は徐々に血中のリンを除去する能力を失い、カルシウム濃度を正常に保つのに十分な量のビタミンDを活性化できなくなる。副甲状腺はこれらの変化を感知して副甲状腺ホルモン(PTH)の産生および放出を増大させ、カルシウム濃度を上昇させる。こうした代謝の変化は骨代謝を変化させ、カルシウムが放出されるため、骨形成異常などの骨の異常が認められる。骨変形、骨痛、骨折リスクの変化と次々に骨の変化が生じる。

CKDにおけるミネラルの変化に対する治療には、副甲状腺ホルモンの放出を抑制する活性型ビタミンD補充などが含まれる。従来の活性型ビタミンD製剤(カルシトリオールおよびアルファカルシドール)はビタミンD受容体に直接作用し、血中カルシウム濃度およびリン濃度を上昇させた。新たに開発されたビタミンD製剤は、同様に副甲状腺ホルモンを抑制するが、カルシウムやリンの濃度はあまり変化させない。カルシウムおよびリンは動脈や組織の石灰化を促進し、心疾患や組織損傷を招く可能性があるため、これらのミネラル濃度の上昇を回避することが重要だと考えられている。

透析不要なCKD(重症でないCKD)患者894名を対象としたビタミンD製剤に関する16件の試験を同定した。若年性心血管疾患リスクまたは死亡に対するビタミンD療法の有効性を理解するためにデザインされた試験はなかった。ビタミンD製剤は無治療と比較してPTHを有意に低下させたが、同時にカルシウムとリンの濃度を上昇させた。CKD患者を対象に、新規ビタミンD製剤による治療を従来のビタミン製剤による治療と直接比較した試験はなかった。新規ビタミンD製剤がカルシウムやリンの濃度上昇と関連しているかどうかは不明である。今後、余命や若年性心疾患など、患者にとって重要なアウトカムを評価するための新たな試験が必要である。CKDのステージによって異なるビタミンD療法(異なるPTH目標値)を使用すべきかどうかを知ることも重要である。

著者の結論: 

透析不要なCKD患者の死亡率および心血管アウトカムに対するビタミンD製剤の効果を判断するための十分なデータがない。ビタミンD製剤はプラセボと比較して血清PTHを低下させるが(49.3 pg/mL [5.6 pmol/L])、臨床において、PTH低下作用をビタミンD投与に関連する血清リンおよびカルシウムの上昇と比較した場合の相対的な有益性は不明である。

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背景: 

ビタミンD製剤は慢性腎臓病(CKD)患者の血清副甲状腺ホルモン(PTH)上昇の抑制に用いられている。

目的: 

透析不要なCKD患者の生化学、骨、心血管、死亡アウトカムに対するビタミンD療法の有効性を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Renal Groupの専門レジストリ、Cochrane's Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE、EMBASEおよび同定した論文の参考文献一覧を検索した。

選択基準: 

透析不要なCKD患者を対象にビタミンD製剤の剤型、投与スケジュールまたは投与経路を比較したランダム化比較試験(RCT)を組み入れた。ビタミンD製剤の定義は、従来からのビタミンD製剤(カルシトリオール、アルファカルシドール、24,25(OH)<Subscript>2</Subscript>ビタミンD<Subscript>3</Subscript>)または比較的新しいビタミンD製剤(ドキセルカルシフェロール、マキサカルシトール、パリカルシトール、ファレカルシトリオール)とした。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がデータを抽出した。統計解析にはランダム効果モデルを用いた。二値アウトカムについてはリスク比(RR)を、連続アウトカムについては平均差(MD)を用いて結果を要約し、95%信頼区間(CI)を付した。

主な結果: 

16件の試験(参加者894名)を組み入れた。ビタミンD製剤の剤型、投与経路、投与スケジュールはいずれも死亡リスクや透析の要否に影響を与えなかった。ビタミンD製剤は血清PTHを有意に低下させた(4試験、153名: MD -49.34 pg/mL, 95% CI -85.70〜-12.97 [-5.6 pmol/L, 95% CI -9.77〜-1.48])。また、ビタミンD製剤を投与した場合、血清PTHがベースライン値より30%超低下する確率が高かった(264名:RR 7.87、95%CI 4.87~12.73)。ビタミンD療法は、治療終了時の血清リン上昇(3試験、140名: MD 0.37 mg/dL, 95% CI 0.09, 0.66 [0.12 mmol/L, 95% CI 0.03, 0.21])および血清カルシウム上昇(5試験、184名: MD 0.20 mg/dL, 95% CI 0.17〜0.23 [0.05 mmol/L, 95% CI 0.04〜0.06])と関連していた。ビタミンDの断続的投与を連日投与または他の投与スケジュールと比較したデータはほとんど入手できなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.3.13]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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