子宮内膜癌の標準手術の一環としてのリンパ節郭清の役割

背景
子宮内膜癌は、西ヨーロッパおよび北米で最も一般的にみられる婦人科癌である。罹患した多くの(75%)女性が子宮に限局した癌であると診断され、4分の3の女性が診断後10年間は生存している。子宮内に限局した癌と診断された女性の10人に1人でリンパ節転移が認められる。したがって、早期癌と推定された女性に対しても、すべての骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節の郭清が推奨されている。この推奨は、骨盤リンパ節および傍大動脈のリンパ節郭清後による生存期間の改善を示唆した非ランダム化比較試験に基づいている。しかし、リンパ節郭清が有益でないかもしれず、特に、外科的なリンパ節郭清は短期的及び長期的に重篤な続発症をおこす可能性もあるので、リンパ節転移に対する追加治療は必ずしもよりよい治療とは言えないかもしれない。

レビューの目的
子宮内膜癌管理のためのリンパ節郭清の有効性と安全性を評価すること。

主な結果
子宮内膜癌の女性を対象にしたリンパ節郭清の有無を比較した試験は3試験のみであった。これらうちの1試験は、アウトカムに関する情報が不十分であったため、このレビューのメタアナリシスには組み込めなかった。1945人の女性が対象となった残りの2試験を検討した結果、リンパ節郭清を受けた女性の方が死亡率が低い、あるいは癌の再発率が低いという根拠は見いだせなかった。加えて、リンパ節郭清を行ったことによる重篤な有害事象は、リンパ節郭清を行わなかった場合よりも多く報告されていた。

エビデンスの質
生存率と有害事象のアウトカムについて、リンパ節郭清の有無による比較での全体的なエビデンスの質は中等度であった(高度のエビデンスの質だった、リンパ浮腫やリンパ嚢胞の有無を除く)。アウトカムとして報告されていなかったので、QOLについてのエビデンスの質は非常に低度だった。

結論
早期子宮内膜癌の管理において、リンパ節郭清を行うか行わないかについての不確実性は、エビデンスの欠如というよりも、おそらく、リンパ節郭清を行った場合に死亡率や再発率は減少しないことをエビデンスが示している事実を反映している。加えて、リンパ節郭清を受けた女性は、受けていない女性に比較して、重篤な有害事象を経験している。

著者の結論: 

推定I期の女性に対するリンパ節郭清は、リンパ節郭清しない場合と比較して、死亡率や再発リスクを低下させるというエビデンスは認められなかった。重篤な有害事象に関するエビデンスによれば、リンパ節郭清を受ける女性は受けなかった女性よりも手術関連の全身的合併症発生率またはリンパ浮腫、リンパ嚢胞形成が高い傾向が示唆される。現在、臨床期が進んだ女性や再発リスクが高い女性におけるリンパ節郭清の効果を判断するRCTのエビデンスは存在しない。

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背景: 

本レビューは、コクラン・ライブラリ2010年第1号に出版され、2015年第9号で改訂されたコクラン・レビューのアップデート版である。子宮内膜癌の外科的管理におけるリンパ節郭清の役割については、いまだ結論をみていない。術前には子宮に限局した癌と診断されていた女性のうち約10%にリンパ節転移が認められる。初回手術における骨盤リンパ節および傍大動脈のリンパ節の切除(リンパ節郭清)は、広く提唱されており、骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節の郭清は国際産婦人科連合(International Federation of Gynaecology and Obstetrics:FIGO)の子宮内膜癌の診断基準の一部に含まれている。この推奨は、骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節郭清によって生存率が改善したことを示唆する研究のデータに基づいている。しかしながら、これらの研究は無作為化比較試験(RCT)ではなく、骨盤リンパ節の切除は予後不良群を見出す以外に、直接的な治療効果をもたらさない可能性がある。さらに、早期子宮内膜癌女性の場合、潜在的なリンパ節転移を治療するためのルーチンのアジュバント放射線治療に関するコクランレビューとRCTのメタアナリシスによると、生命予後の改善は認められなかった。骨盤リンパ節及び傍大動脈リンパ節の外科的切除は、短期的および長期的に重篤な続発症を引き起こしかねない。したがって、この治療法の臨床的意義を立証することは重要である。

目的: 

子宮内膜癌管理のためのリンパ節郭清の有効性と安全性を評価する。

検索戦略: 

Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE、EMBASEの初版レビューでの2009年6月までの検索に加え、前回のアップデート版での2015年6月までの更新、さらに本アップデートでは2017年3月まで検索日を延長した。また臨床試験登録、学術集会の抄録、選択した研究の参考文献リストも検索し、当該分野の専門家にも問い合わせた。

選択基準: 

子宮内膜癌と診断された成人女性を対象に、リンパ節郭清の有無で比較したRCTおよび準RCT

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者らが、独立してデータ抽出とバイアスリスクの評価を実施した。リンパ節郭清を受けた女性および受けなかった女性を対象に、全生存期間および無増悪生存期間のハザード比(HR)ならびに有害事象を比較したリスク比(RR)を、ランダム効果モデルを用いたメタアナリシスで集積した。GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて、全体的なエビデンスの質を評価した。

主な結果: 

検索方法に従って、978試験が同定された。タイトルと抄録のスクリーニングにより、50試験を残して除外された。3つのRCTが選択基準に適合した。そのうち1つの小規模RCTは、データが不十分であったので、メタアナリシスには含めなかった。ランダムに割り付けられた1945人を分析している2つのRCTでは、1851人を対象に予後因子で調整した生存期間のハザード比(HR)を報告しており、4つの評価基準を満たしているためバイアスリスクは全体的に低かった。3番目の研究は、ランダム化の生成や割付けの隠蔽化、盲検化、アウトカムの報告の完全性に関する適切な情報が不足していたため、バイアスリスクが全体的に不明であった。

メタアナリシスの結果は、旧版のレビューから変わっておらず、リンパ節郭清を受けた女性とリンパ節郭清を受けていない女性の間に、全生存期間や無再発生存期間に差はないことが示された(生存期間に対する統合ハザード比 (HR) 1.07、95%信頼区間 (CI) 0.81~1.43、無再発生存期間に対するハザード比 (HR) 1.23、95%CI 0.96~1.58) (1851人、2試験、中等度のエビデンスの質)。

リンパ節郭清を受けた女性とリンパ節郭清を受けていない女性の間に、直接的な手術の合併症には差はなかった。しかし、リンパ節郭清を受けた女性は受けなかった女性に対して、手術に関連した全身疾患の発症率やリンパ浮腫、リンパ嚢胞形成のリスクが有意に高かった (全身的合併症のリスク比(RR) 3.72、95%信頼区間 (CI) 1.04~13.27、リンパ浮腫/リンパ嚢胞形成のRR 8.39,95%CI 4.06~17.33)。(1922人、2試験、高度のエビデンスの質)

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、増澤祐子 翻訳[2017.12.28]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007585》

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