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上皮性卵巣がんが再発した女性に対して、リポソーマルドキソルビシンを単独で、または他の薬剤と併用して使用することの有害性と有益性は?

本レビューの目的は何か?

本レビュー更新版の目的は、初回治療後に進行または再発した上皮性卵巣がんの女性患者に対する治療として、ドキソルビシンをペグ化リポソームに封入した抗がん剤を使うことの有益性と望ましくない作用を要約することである。この臨床疑問に答えるため、関連するすべての研究を収集・分析した。26件の研究を特定し、本レビューの初版に12件の研究を追加した。

要点

上皮性卵巣がんが治療終了後6ヵ月以上たってから再発した女性で、他の抗がん剤とリポソーマルドキソルビシンを併用した治療を受けた女性は、他の併用療法を受けた女性と比べて、生存期間は同程度であった。また、他の併用療法を受けた女性と比べて、がんが再増殖するまでの期間が長くなるかもしれない。生活の質(QOL)は、リポソーマルドキソルビシンを使用している方が若干改善されるかもしれない。リポソーマルドキソルビシンの治療を受けている女性の方が多かった貧血を除けば、重篤な副作用は他の併用療法を受けている女性に見られたものと同様であった。

上皮性卵巣がんがプラチナ製剤による治療終了後6ヵ月以上たってから再発した女性で、他の抗がん剤とリポソーマルドキソルビシンを併用した治療を受けた女性は、他の併用療法を受けた女性と比べて、生存期間はおそらく同程度である。しかし、その他の望ましくない作用や利益については、結果は不確かだった。リポソーマルドキソルビシンと他の抗がん剤を併用した場合とリポソーマルドキソルビシンを単独使用した場合では、女性の生存期間にほとんど差はなく、がんが再増殖するまでの期間にもほとんど差がない可能性がある。しかし、併用した場合の方が全体的に重篤な望ましくない作用や重篤な貧血のリスクが増加する可能性が高い。

背景

再発上皮性卵巣がんに対する抗がん剤の選択は、プラチナ製剤フリー期間(プラチナ製剤による治療後から再びがんが進行するまでの期間)の長さに影響される。というのも、プラチナ製剤フリー期間が短いということは、プラチナ製剤を使用した化学療法(訳注:抗がん剤を使用した治療のこと)の効果が期待できないことを示唆しているからである。プラチナ製剤の治療を受けてから1ヵ月以内に再発した女性、または治療中に進行した女性は「プラチナ製剤不応性」、プラチナ製剤治療後1ヵ月から6ヵ月の間に再発した女性は「プラチナ製剤抵抗性」、プラチナ製剤治療後6ヵ月以上経過してから再発した女性は「プラチナ製剤感受性」に分類される。

ドキソルビシン塩酸塩は抗がん剤のひとつで、がん細胞のDNAを阻害することによって作用する。一方で、心臓に悪影響を及ぼすことがある。リポソームとよばれる小さなカプセルの中に薬剤を閉じ込めることで、心臓を守りながらがん細胞により高濃度の薬剤を到達させることができる。このリポソームに封入した形の抗がん剤は、リポソーマルドキソルビシンと呼ばれる。

上皮性卵巣がんが再発した女性に対して、リポソーマルドキソルビシンをどのように使用するのが最善かを見極めたかった。このような女性の多くは余命が限られているため、QOLを考慮した治療法の選択が重要になる。リポソーマルドキソルビシンに特有な副作用のひとつに、手足症候群(HFS)がある。これは、手のひらや足の裏が赤くなったり、腫れたり、しびれたり、皮膚がはがれたりする状態である。

主な結果

前回のレビューに12件の研究を追加した。その結果、26件の研究が含まれ、合計8,277人の上皮性卵巣がんが再発した女性が対象となっている。プラチナ製剤感受性を対象とした研究は7件(2,827人)、プラチナ製剤抵抗性を対象とした研究は11件(3,246人)、プラチナ製剤感受性とプラチナ製剤抵抗性の両方を対象とした研究は8件(2,079人)であった。

プラチナ製剤感受性上皮性卵巣がんの再発

プラチナ製剤感受性の女性患者を対象に、リポソーマルドキソルビシンを含む抗がん剤を複数使用した化学療法と他の抗がん剤を複数使用した化学療法を比較した研究が5件特定できた。リポソーマルドキソルビシンを含む化学療法は、女性の生存期間(OS)にほとんど差はないが、再発までの期間(PFS)を延長させる可能性が高い。生活の質(QOL)は多少改善するかもしれない。リポソーマルドキソルビシンを追加すると貧血が多くなるが、重篤な副作用の総数にはほとんど差がないかもしれない。リポソーマルドキソルビシンを含む化学療法が、他の望ましくない作用に及ぼす影響については不明である。

プラチナ製剤抵抗性上皮性卵巣がんの再発

プラチナ製剤抵抗性の女性を対象に、リポソーマルドキソルビシンを単独で使用した化学療法を従来の化学療法と比較した研究が6件特定できた。リポソーマルドキソルビシン単独では、生存期間にほとんど影響を与えないだろう。再発までの期間(PFS)、重篤な望ましくない作用全般(輸血など入院治療を必要とするもの)、グレード3以上の重症貧血、手足症候群(HFS)、神経系に対する重篤な望ましくない作用(手足の指の永続的なしびれなど)の発生率に対する影響については、非常に不確かであった。

リポソーマルドキソルビシンを含む抗がん剤を複数使用した化学療法とリポソーマルドキソルビシンを単独で使用した治療と比較した研究が2件見つかった。リポソーマルドキソルビシンを含む化学療法を使用しても、生存期間(OS)にはほとんど差がなかった。再発までの期間(PFS)もほとんど差がないかもしれない。抗がん剤の併用は、全体的に重篤な副作用と貧血を増やす可能性が高い。併用療法は、手足症候群(HFS)を大幅に減らすだろうが、神経系への望ましくない作用にはほとんど差がないかもしれない。

リポソーマルドキソルビシンを単独で使用した治療と新しい標的治療薬や免疫療法を比較した研究がいくつかあるが、リポソーマルドキソルビシンにこれらを追加することの有益性については非常に不確かである。

本レビューはいつのものか?

再発上皮性卵巣がんに対するリポソーマルドキソルビシンに関する研究を電子データベースなどで検索し、2022年1月までの26件の研究を対象とした。

訳注

《実施組織》杉山伸子、内藤未帆 翻訳 [2024.11.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006910.pub3》

Citation
Newhouse R, Nelissen E, El-Shakankery KH, Rogozińska E, Bain E, Veiga S, Morrison J. Pegylated liposomal doxorubicin for relapsed epithelial ovarian cancer. Cochrane Database of Systematic Reviews 2023, Issue 7. Art. No.: CD006910. DOI: 10.1002/14651858.CD006910.pub3.