主なメッセージ
多嚢胞性卵巣症候群(卵巣で成熟卵子がうまく作られない状態)の女性が不妊治療を受ける場合、体外成熟(未熟な卵子を、受精に十分な成熟度まで体外で育てること)が体外受精(卵子を体外で精子と受精させる治療法)よりも生児出産や妊娠を増やすのに優れているかどうかはわかっていない。
体外成熟は、体外受精に比べて流産を増加させる。一方、多嚢胞性卵巣症候群の女性における卵巣過剰刺激症候群(卵巣が卵子を過剰に産生する痛みを伴う状態)を減少させる。
早産(妊娠37週未満での出産)と胎内での赤ちゃんの発育については、体外成熟と体外受精ではほとんど差がないが、より多くの研究が必要である。
論点
なかなか妊娠しない女性は、妊娠する可能性を高めるための治療を必要とする場合がある。これには、女性が卵子の成熟を促す薬を服用し、卵子を取り出して体外で精子と受精させ、できた受精卵を女性の子宮に戻す方法がある。これを体外受精(IVF)という。なかなか妊娠しない女性の中には、多嚢胞性卵巣症候群(卵巣で成熟卵子をうまく作れない状態)の人がいる。このような女性が卵子の成熟を促す薬を服用すると、卵子が過剰に作られることがある(卵巣過剰刺激症候群と呼ばれる)。これは卵巣が腫れて痛みを伴い、重篤な病気や(まれには)死に至ることもある。多嚢胞性卵巣症候群の女性が卵巣を刺激する薬を服用しても、作られる卵子が未熟すぎて精子と受精できないことが多く、妊娠率が低くなる。
多嚢胞性卵巣症候群の女性に対して、卵子を受精前に体外で成熟させることができれば(体外成熟と呼ばれる)、卵子を早期に回収することができる。妊娠の成功が報告されている一方で、生まれてくる赤ちゃんの健康状態が心配されている。
何を調べようとしたか?
なかなか妊娠しない多嚢胞性卵巣症候群の女性にとって、体外成熟が体外受精と比べて有益か有害かを知りたかった。
何を行ったか?
なかなか妊娠しない多嚢胞性卵巣症候群の女性における、体外成熟と体外受精を調査した研究を検索した。研究結果を比較して要約し、研究方法や試験の規模などの要素に基づいて、エビデンスに対する信頼度を評価した。生児出産(妊娠20週以降に生きた赤ちゃんが生まれる)、妊娠20週までの流産、臨床的妊娠(妊娠7週に超音波検査で赤ちゃんの心拍が確認される)、卵巣過剰刺激症候群、早産、子宮内での赤ちゃんの発育について検討した。
何がわかったか?
4件の研究が見つかった。そのうち2件はデータが不十分であったが、残りの2件は完全な結果を発表していた。この2件の研究には810人の女性が参加した。
主な結果
生児出産率は、体外成熟と体外受精で同程度であったが、エビデンスに対する信頼度は非常に低い(2研究、739人)。100人中45人の女性が体外受精で生児を得る場合、体外成熟では100人中13人から53人の確率となる。
体外成熟は、体外受精に比べて流産を増加させる(2研究、378人)。100人中20人の女性が体外受精で流産する場合、体外成熟では100人中20人から40人の確率となる。
体外成熟は、卵巣過剰刺激症候群を大幅に減少させる(2研究、739人)。100人中4人の女性が体外受精で卵巣過剰刺激症候群になる場合、体外成熟では100人中0人から2人の確率となる。
臨床的妊娠ではほとんど差がないかもしれないが、エビデンスに対する信頼度は非常に低い(2研究、739人)。早産ではおそらくほとんど差がない(2研究、739人)。子宮内の赤ちゃんの健康、発育、遺伝について、エビデンスに対する信頼性は非常に低い(1研究、351人)。
エビデンスの限界は何か?
体外受精と比べて、体外成熟が生児出産や臨床的妊娠に与える影響については、研究方法が異なっており、意味のある結果を出すのに十分な数の女性が含まれていないため、まだ不確かである。体外成熟は、流産の可能性を高め、卵巣過剰刺激症候群の可能性を減らすことは確かである。
参加した女性の数が少ないため、早産に関するエビデンスの信頼性は中程度である。1件の研究しかなく参加した女性の数も少ないため、子宮内の赤ちゃんの健康、発育、遺伝 に関するエビデンスの信頼性はほとんどない。これらの知見は、慎重に解釈されるべきである。
このエビデンスの更新状況
2023年2月までのエビデンスをレビューした。このレビューは今回で3回目の更新となる。
《実施組織》内藤未帆、杉山伸子 翻訳[2025.05.06]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006606.pub5》