女性の腹圧性尿失禁に対する中部尿道スリング術

背景

腹圧性尿失禁(力を入れたり運動したりする時、たとえばくしゃみや咳、笑いなどで意図せずに尿が漏れること)は、女性に最も多いタイプの尿失禁であり、生活の質の低下につながる。腹圧性尿失禁の女性は、尿が漏れてしまうために、性交にも支障をきたすことがある。腹圧性尿失禁の管理に、女性とその家族が費やしている費用は少なくない。18歳以上の女性の3人に1人は、生涯のいずれかのタイミングで腹圧性尿失禁に悩まされると言われている。

この問題を改善するための手術の侵襲性は、年を追うごとに小さくなってきている。中部尿道スリング術は、現在行われている多くの手術のうちの一つである。これらの手術は、初めて手術を受ける女性や過去に受けた手術がうまくいかなかった女性に適している。中部尿道スリング術では、膀胱から尿を出す管である尿道の下にテープを通す。女性が咳をしても、テープが尿道を圧迫して尿漏れを防ぐ助けをしてくれる。

この手術には大きく分けて2つの方法があり、お腹から恥骨の後ろにテープを挿入する方法(「恥骨後式」)と足の付け根から挿入する方法(「経閉鎖孔式」)がある。

このレビューで確認したかったこと

2つの異なる方法を用いた中部尿道スリング術の効果と費用を調べた。また、テープの挿入方法の違いや手術に使われる素材の違いについての比較も行った。このレビューの目的は、腹圧性尿失禁の治療としてこれらの手術がどれほど効果的であるかを調べること、可能性がある合併症の発生率の判断に役立てることである。

このレビューの主な結果

2014年6月までの文献検索を行った。計12,113人の女性を対象とした81件の試験を確認した。これらの試験では、使用するテープやテープの挿入経路にかかわらず、いずれの手術でも80%以上の女性の腹圧性尿失禁が治癒するか、または症状が大幅に改善することが示された(追跡期間は術後5年まで)。研究間で異なるアンケートを使って生活の質(QOL)を評価していたため、結果を統合することができなかった。しかし、2つの手術の間でQOLに関する明確な差はなかったが、これらの手術を行えばQOLが改善されるという結果が得られた。費用面では、経済学的研究の非系統的レビューによると、経閉鎖孔式の方が恥骨後式よりも費用がかからないことが示唆された。また、術後5年以上経過した時点でのテープの有効性について報告していた研究は、わずかしかなかった。評価できたエビデンスでは、有効性が持続していることが示された。

副作用

恥骨の後ろを通るテープ(恥骨後式)は、手術中に膀胱を傷つけたり、手術後に膀胱を完全に空にできなくなったりする危険性が高いようである。しかし、この手術では、短期的には鼠径部の痛みが軽くて済む。この方法でテープを挿入した場合、鼠径部からテープを挿入した場合(経閉鎖孔式)と比較して、長期的に再手術が必要になるリスクが低いことを示す限定的なエビデンスがあった。中程度の質のエビデンスによると、テープ関連の合併症の全体的な報告率は低く、例えば、テープが腟内に露出するような事例はどちらの挿入方法でも約2%であった。性交時の痛みなどの問題の発生率は低く、性交時の尿失禁も改善されたと報告されている。

このレビューの限界

これらの結果は、中等度の質のエビデンスに基づくものである。ほとんどの研究でその方法が明確に記述されていなかったため、結果にある程度の不確実性が見られた。現在、術後5年以降のデータを発表しているランダム化比較試験(最も信頼性の高い結果が得られる試験)は限られている。つまり、これらの手術が長期的にどれだけ効果的で安全であるかというエビデンスは、短~中期(最大5年間)に関するエビデンスに比べて遅れていることを意味する。長期的な結果の信頼性を高めるためには、より長期的なデータが必要である。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、阪野正大 翻訳[2021.10.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006375.pub4》

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