骨折治療に対する高圧(加圧室内)での酸素使用

骨折は非常によくみられるものであるが、治癒に長期間を要す、あるいは治らないケースが時々ある。結果として癒合不全となり、長期的な痛みや機能の喪失を引き起こすことがある。高圧酸素療法(HBOT)の使用は、癒合不全の治癒や治療を促進する方法として推奨されてきている。高圧酸素療法は、特別に設計された部屋で患者に高圧で酸素を供給する。この部屋は、深海に潜るダイバーが浮上後に圧力問題で使用するのと同様のものである。この目的は骨折部位への酸素供給を増加させることであり、理論的に治癒を促進すると考えられている。高圧酸素療法は、まれではあるが、長期的に重度の有害作用を引き起こす場合があることに注意を要する。

本レビューでは、骨折の不完全な治癒を避けたり治療したりするための高圧酸素療法の使用を、支持たまは否定するランダム化試験のエビデンスはないことがわかった。しかし、今回の更新では、将来的な高圧酸素療法の使用に関するエビデンスが得られる可能性のある、進行中の3件のランダム化試験を見出した。

著者の結論: 

本システマティック・レビューでは、骨癒合遅延や確定した骨癒合不全の管理に対して、HBOTの有効性を支持または否定する、関連性のあるクリニカル・エビデンスを見出すことができなかった。これらの傷害の治療にHBOTを活用できるとすれば、その役割を明確にするには良質な臨床試験が必要である。3件のランダム化比較試験が進行中であり、将来的にこの課題に取り組むための関連性のあるクリニカル・エビデンスの提供に、これらの試験が役立つことを期待したい。

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背景: 

高圧酸素療法(HBOT)は、圧力容器内で1絶対気圧(ATA)より高い圧力で100%の酸素を断続的に投与する療法である。この治療法はさまざま疾患の治療に使われており、治癒が遅い患者や、骨癒合不全が確定した患者に役立つとされている。本レビューは2005年に初版を発表、2008年に更新されたレビューの再更新である。

目的: 

本レビューの目的は、 骨折治癒の遅延および確定した骨癒合不全の治療に対する高圧酸素療法(HBOT)の利益について、エビデンスを評価することである。

検索戦略: 

the Cochrane Bone, Joint and Muscle Trauma Group Specialised Register(2012年7月)、the Cochrane Register of Controlled Trials(CENTRAL)(The Cochrane Library 2012年7号)、MEDLINE(1946年~2012年7月第1週)、EMBASE(1974年~2012年7月16日)、CINAHL(1937年~2012年7月17日)、the Database of Randomised Controlled Trials in Hyperbaric Medicine(2012年7月アクセス)、the WHO International Clinical Trials Registry Platform(2012年7月17日)、および論文の参考文献リストを検索した。

選択基準: 

骨折および骨癒合不全の治癒に対して、HBOTの臨床効果を非HBOT(無治療または偽治療)と比較した、あらゆるランダム化比較試験の選択を目的とした。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者が独立して電子検索結果を選別し、全3名のレビューアが独立して研究を選択した。2名のレビューアが独立してデータを収集し、標準化フォームを用いてバイアスのリスクを評価した。

主な結果: 

選択基準を満たす試験はなかった。今回の更新では、進行中の3件のランダム化比較試験を同定した。除外した8件の研究のうち3件のランダム化試験では、骨折患者を対象としてHBOTと無治療を比較していた。このうち1件の試験は中止され、他2件では骨折治癒アウトカムについて報告していなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.30]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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