急性喘息治療のための吸入硫酸マグネシウム

この日本語訳は最新版ではない。英語の最新版をご覧になるにはここをクリックしてください。

急性喘息は、救急科で扱う一般的な疾患で、通常は全身性ステロイド、吸入β刺激薬およびその他の各種薬剤(吸入ステロイド、吸入抗コリン作用薬、硫酸マグネシウム静脈内注入薬および酸素など)により治療されます。コクラン・レビューでは、急性の重度喘息増悪における最大呼気流量(患者がより自由に呼吸する能力)改善に、硫酸マグネシウム静脈内注入が有用であることが示されました。従って、喘息発作に悩む患者に吸入硫酸マグネシウムが有用であるか否かを見出すことに我々は興味を抱き、本レビューではこの疑問を探索することにしました。 吸入硫酸マグネシウムは、喘息発作を経験し、気管支拡張薬、ステロイドを服用したが満足な奏功の得られなかった場合のみ、推奨されます。本レビューでは、急性喘息発作に対する吸入硫酸マグネシウムとβ<sub>2</sub>刺激薬(イプラトロピウム併用の有無を問わず)は全体として肺機能を有意に改善しませんでしたが(従って、患者が自由な呼吸を回復するのに有用ではありませんでした)、特に重度の喘息発作のある成人では改善を認めると思われ、これは今後の試験実施に有利な点です。しかし、入院回数減少などの臨床的に重要なアウトカムに対し硫酸マグネシウムネブライザー製剤付加が有益性を示すエビデンスは、本レビューに含まれた試験では立証されていません。

著者の結論: 

現在、吸入MgSO<sub>4</sub>が吸入β<sub>2</sub>刺激薬の代替薬として使用可能であるという適切なエビデンスは得られていない。吸入β<sub>2</sub>刺激薬に付加して使用した場合(吸入イプラトロピウム併用の有無を問わず)の肺機能の改善または入院回数減少を示す包括的かつ明らかなエビデンスは、現在のところ入手されていない。しかし3件の試験の個別の試験結果により、重度喘息増悪患者の肺機能改善可能性が示された(FEV1 50%未満が予測される)。本レビューの試験間の異質性により、これ以上の明確な結論は得られない。さらなる試験では、現行のガイドラインが示す急性喘息の治療(吸入β<sub>2</sub>刺激薬および臭化イプラトロピウム)への吸入MgSO<sub>4</sub>付加を主眼として検討すべきである。エビデンスが示すように、MgSO<sub>4</sub>ネブライザー製剤の最大の効果は重度かつ急性の喘息患者に対し発揮され、今後の研究はこの点を主眼とすべきである。今後の試験での比較を改善可能にするため、成人および小児対象の試験でともに中核となるアウトカムのセットについて合意を得る必要がある。

アブストラクト全文を読む
背景: 

喘息の増悪は高頻度に生じる可能性があり、重症度の範囲は比較的軽度から喘息重積状態まで広範囲である。硫酸マグネシウム(MgSO<sub>4</sub>)の使用は、急性増悪状態で利用可能な多数の治療選択肢のうちの一つである。MgSO<sub>4</sub>静脈内注入の有効性が実証されているが、吸入MgSO<sub>4</sub>の役割はあまり知られていない。

目的: 

急性喘息における吸入MgSO<sub>4</sub>投与の肺機能および入院率に対する有効性を判断する。 目的:1)吸入β<sub>2</sub>刺激薬に付加した場合、2)吸入β<sub>2</sub>刺激薬単独使用との比較、または3)吸入β<sub>2</sub>刺激薬と臭化イプラトロピウムとの併用に付加した場合の吸入MgSO<sub>4</sub>の効果を定量する。

検索戦略: 

2012年9月の試験のCochrane Airways Group register of trialsからランダム化比較試験(RCT)を同定した。公開された試験の参考文献リスト、広範囲電子検索法により同定した試験、灰色文献および会議議事録で入手した試験を上記試験に追加した。

選択基準: 

急性喘息の成人または小児を対象とするランダム化(または擬似ランダム化)比較試験を本レビュー組み入れ対象とした。患者がMgSO<sub>4</sub>ネブライザー製剤単独使用またはβ<sub>2</sub>刺激薬との併用および/または臭化イプラトロピウムとの併用を受け、β<sub>2</sub>刺激薬単独または不活性対照薬と比較している場合、当該試験をレビューに組み入れた。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが別々に、試験選択、データ抽出およびバイアスリスク評価を行った。著者から欠測データを収集するよう試みた。肺機能は標準化平均差(SMD)、入院はリスク比(RR)で表し、両者を95%信頼区間(CI)で表示した。

主な結果: 

バイアスリスクが不明および高値である16件の試験(21の参考文献)が適格とみなされ、患者896名がランダム化された(患者838名が試験を完了した)。16件中7件の試験が特に成人対象で、3件が成人および小児を含み、4件が小児を登録し、残り2件の試験では患者の年齢が記載されていなかった。 試験のデザイン、規定、介入およびアウトカムは全16件の試験で異なり、この異質性により直接の比較は困難であった(表1~3参照)。 対象試験中の総バイアスリスクはばらつきがあり、この点が「所見概要」の表に反映され、大半のアウトカムが中等度以下と判断された。 吸入硫酸マグネシウムと吸入β<sub>2</sub>刺激薬の併用 吸入MgSO<sub>4</sub>とβ<sub>2</sub>刺激薬併用をβ<sub>2</sub>刺激薬単独使用と比較したところ、肺機能の有意な改善は認められなかったが(SMD 0.23、95%CI -0.27~0.74、3件の試験、n = 188)、試験間の異質性はかなり認められた。入院について明らかな利点は認められず(RR 0.76 95%CI 0.49~1.16、4件の試験、n = 249)、重篤な有害事象の報告はなかった。 吸入硫酸マグネシウムと吸入β<sub>2</sub>刺激薬の比較 吸入MgSO<sub>4</sub>とβ<sub>2</sub>刺激薬を比較する3件の試験における肺機能の結果は、異質性が高く統合不可能であったが、試験のうち2件にMgSO<sub>4</sub>による肺機能不良が認められた。MgSO<sub>4</sub>をβ2刺激薬と比較する単回小規模試験では入院回数について有意差を認めず(RR 0.53 95%CI 0.05~5.31、1件の試験、n = 33)、重篤な有害事象の報告もなかった。 吸入β<sub>2</sub>刺激薬とイプラトロピウム併用への吸入硫酸マグネシウムの付加 さらなる比較として、吸入イプラトロピウムとβ<sub>2</sub>刺激薬併用へのMgSO<sub>4</sub>投与付加を本レビューの2012年更新版に含めた(GINAガイドラインにより推奨)。しかし、当該アウトカムについては明瞭な結論を得るだけの十分なデータが得られていないが、重度の喘息増悪を認めた成人対象の2件の小規模試験では、吸入MgSO<sub>4</sub>の付加により肺機能の改善を認めた。