子宮内膜症手術の術前・術後の内科的治療について

レビューの論点

子宮内膜症に対する外科的治療を行う際に、術前・術後(またはその両方)に内科的なホルモン抑制療法を行うと、手術だけ行う場合や、術前・術後(またはその両方)に他の内科的療法を行う場合と比較して、どのような効果があるか。

背景

子宮内膜症では、子宮内膜に似た組織が、卵巣や卵管などの他の部位で増殖し始める。生殖可能な年齢の女性の10%~15%が罹患しており、下腹部の痛み(骨盤痛)や背中の痛み(通常、月経中に悪化する)、性交痛、不妊などの症状が出ることがある。

子宮内膜症の病変を切除する手術とともに、病変を小さくする目的で生殖ホルモンの濃度を下げる治療(偽閉経療法という)がよく用いられる。この内科的治療は、痛みやその再発を抑え、疾患の再発を減らし、妊娠率を向上させる。薬物療法の効果が期待できるかどうかは、投与が手術の前か後かによって異なるかもしれないが、エビデンスは明確ではない。

研究の特徴

25件のランダム化比較試験(2つ以上の治療群のいずれかに無作為に振り分けられる臨床研究)を同定した。計3378人の女性が、内科的治療と手術の併用あるいは手術だけのいずれかの治療を受けた。プラセボを投与したり内科的治療を行わなかったりした場合を「手術のみ」と定義した。エビデンスは2019年11月までのものである。

主な結果

内科的治療を子宮内膜症の手術の前後に使用した場合、痛み、痛みや病気の再発、妊娠率に対する効果にはばらつきがあった。しかしながら、子宮内膜症の再発や妊娠については、手術単独に対して術後に内科的治療を行う場合が検討した比較の組合わせの中では最も効果が高い可能性がある。

手術前の内科的治療を、プラセボまたは内科的治療を行わない場合と比較して

非常に弱いエビデンスによると、治療後12ヶ月以内における骨盤痛の再発が手術のみの女性で24%である場合、手術前に内科的治療を行った場合の再発の可能性は17%~40%となる。

非常に弱いエビデンスによると、手術のみを受けた女性の12ヵ月以内の子宮内膜症の再発率が45%である場合、手術前に内科的治療を行った場合の再発率は39%~65%となる。

非常に弱いエビデンスによると、手術のみを受けた女性の妊娠率が58%の場合、手術前に内科的治療を行った場合の妊娠率は53%~79%になると考えられる。

手術後の内科的治療を、プラセボまたは内科的治療を行わない場合と比較して

弱いエビデンスによると、治療後12ヶ月以内の痛みの再発が手術のみを受けた女性で26%である場合、手術後に内科的治療を行った場合の再発の可能性は13%~24%となる。

弱いエビデンスによると、手術のみを受けた女性で12ヶ月以内の子宮内膜症の再発率が17%である場合、手術後に内科的治療を行った場合の再発率は3%~9%となる。

非常に弱いエビデンスによると、手術のみを受けた女性で12ヶ月以内の子宮内膜症の再発(異なる分類を使用して診断)が45%である場合、手術後の内科的治療を行った場合再発の可能性は30%~52%となる。

中程度の質のエビデンスによると、手術のみを受けた女性の妊娠率が34%である場合、手術後に内科的治療を行った場合の妊娠率は35%~48%になると考えられる。

術前の内科的治療と術後の内科的治療の比較

弱いエビデンスによると、手術後に内科的治療を受けた女性の治療後12ヶ月以内の骨盤痛の再発が20%である場合、手術前に内科的治療を受けた場合の再発の可能性は19%~41%となる。

非常に弱いエビデンスによると、手術後に内科的治療を受けた女性の12ヵ月以内の子宮内膜症の再発率が40%である場合、手術前に内科的治療を受けた場合の再発率は39%~66%となる。

非常に弱いエビデンスによると、手術後に内科的治療を受けた女性の妊娠率が60%である場合、手術前に内科的治療を受けた場合の妊娠率は54%~78%になると考えられる。

エビデンスの質

エビデンスの質は非常に低度から中程度であった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、内藤未帆 翻訳[2021.10.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD003678.pub3》

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