多嚢胞性卵巣症候群に対する鍼治療

レビューの論点

多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome:PCOS)の女性の排卵障害に対する鍼治療の有効性と安全性とは。

背景

PCOSは、女性の卵巣(卵子を作る器官)に複数の嚢胞(液体で満たされた嚢)ができ、月経(生理)の頻度が低い、または非常に軽い、受胎(妊娠)の失敗、過度に髪が伸びるなどの特徴がある。女性は症状がある場合とない場合がある。PCOSの女性に対する現在の標準的な西洋医学の治療法は、処方薬、手術、ライフスタイルの改善である。鍼治療はさまざまなホルモン値に影響を与えることによって、排卵(卵子の放出)を刺激する可能性が科学的根拠(エビデンス)により示唆されている。鍼治療は中医学の1つで、ある部位の皮膚に細い鍼を刺入する。PCOSに対する鍼治療の正確な作用機序は不明であり、今回のレビューはPCOSに対する鍼治療を検討することを目的とした。

試験の特性

検索した医療データベースは、排卵頻度が低い、または排卵しないPCOSの女性に対する鍼治療を含む2つ以上の治療群の1つに、参加者をランダムに割り付けた臨床試験を対象とした。鍼治療と、見せかけの鍼治療(偽鍼)、無治療、ライフスタイルの改善(リラクセーションなど)、従来の治療とを比較した。

今回のレビューは、1546例の女性を含む8件の試験を組み入れた。これらの試験では、真の鍼治療と偽鍼、クロミフェン(排卵誘発薬)、リラクセーション、およびダイアン35(併用経口避妊薬)との比較、また低周波の電気鍼(鍼から弱い電流を流す)と運動との比較を行った。妊娠を希望する女性と定期的な排卵と症状のコントロールを希望する女性を関心ある2つの主要な集団として対象とした。

主要な結果

主な関心は、出生率、多胎妊娠率(妊娠を希望する女性の場合)、および排卵率(定期的な排卵/症状のコントロールを希望する女性の場合)であった。エビデンスの質が非常に低く、結果が不正確であったため、偽鍼治療と比較して、出生率、多胎妊娠率、排卵率における鍼治療の効果は明らかではなかった。同様の理由で、臨床妊娠率と流産率における鍼治療の効果も明らかではなかった。鍼治療は、定期的な月経の回復を改善する可能性がある。鍼治療は、偽鍼治療と比較して、おそらく副作用を悪化させた。

運動、介入無し、リラクセーション、クロミフェンにおいて、出生率と多胎妊娠率に関するデータを報告した試験はなかった。ダイアン35を含む試験は、女性が症状コントロールのみに関心があったため、妊孕性アウトカムを測定しなかった。

鍼治療は、リラクセーションやダイアン35と比較して、排卵率を改善するかどうかは明らかでない(治療の3カ月後に、高周波音波を用いて画像を作成する超音波検査で測定した)。その他の比較では、排卵率の報告がなかった。

運動、介入無し、クロミフェン、ダイアン-35との比較において、鍼治療群で副作用が報告された。これらは、めまい、吐き気(不調感)、あざなどであった。

全体的にエビデンスの質は低い、または非常に低かった。PCOSの女性の排卵障害に対する鍼治療の使用を支持するには、現在のエビデンスは不十分である。

エビデンスの質

エビデンスは非常に低い~中程度の品質で、主な限界は重要な臨床結果と十分なデータの報告がなかったことである。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2019.09.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007689.pub4》

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