レビューの論点
生殖補助医療を受ける女性における黄体ホルモン剤の効果について、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬、GnRH拮抗薬およびその他の黄体ホルモン剤と比べたエビデンスを検討した。
背景
GnRH作動薬および拮抗薬は、生殖能力に関係するホルモンに作用する薬である。一般的には、生殖補助医療を受けている女性において、黄体形成ホルモンと呼ばれるホルモンが早く排卵させてしまうのを防ぐために使われる。これは、自然に排卵してしまうと採卵できなくなる可能性があるため、重要である。しかしながら、これらの薬は高価であり、注射しなくてはならない。別の方法として、ステロイドホルモンである黄体ホルモンを使う方法がある。黄体ホルモンは経口投与で同等の効果を得られる可能性があり,コストを削減し,患者の満足度を高めることができる。メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、ジドロゲステロン、微粉化プロゲステロンなどのさまざまな黄体ホルモン剤を用いて、GnRH作動薬とGnRH拮抗薬による治療の有益性と危険性の比較を行った。
研究の特徴
生殖補助医療を受けた合計3,224人の女性を対象に、経口黄体ホルモン剤とGnRH作動薬、GnRH拮抗薬、その他の黄体ホルモン剤を比較した14件の研究を同定した。エビデンスは、2021年12月現在のものである。
主な結果
14件の十分にデザインされた研究が解析に含まれた。
黄体ホルモン剤とGnRH拮抗薬の比較
GnRH拮抗薬投与後の生児出産の可能性を18%とすると、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(黄体ホルモン剤の一種)投与後の生児出産の可能性は14~32%である。
採卵を中止する確率は、黄体ホルモン剤とGnRH拮抗薬との間に差はなかった。GnRH作動薬は、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mgと比べると、わずかに少ないかもしれない。
黄体ホルモン剤とGnRH拮抗薬を比べた場合、臨床的に確認された妊娠の確率や流産率に関する結論は得られなかった。
卵子の数が正常な女性(卵巣刺激に対する反応が標準的)では、微粉化プロゲステロン(黄体ホルモン剤の一種)は、GnRH拮抗薬と比べて、MⅡ期の卵子の数が2~6個多く採卵できるかもしれない。
ゴナドトロピンの投与量にはほとんど差がないかもしれない。
黄体ホルモン剤とGnRH作動薬の比較
卵巣刺激に対する反応が標準的な女性が生殖補助医療を受ける場合、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mg(黄体ホルモン剤の一種)とGnRH作動薬では、生児出産の可能性に差はないかもしれない。
GnRH作動薬投与後に採卵を中止する可能性を5%と仮定した場合、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mg(黄体ホルモン剤の一種)投与後に中止する可能性は2~16%である。
黄体ホルモン剤とGnRH作動薬を比べた場合、臨床的に確認された妊娠の確率や流産率に関する結論は得られなかった。
採卵できるMⅡ期の卵子の数には、ほとんど差がないかもしれない。
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mg(黄体ホルモン剤の一種)は、GnRH作動薬と比べて、ゴナドトロピンの投与量が少なかった。
黄体ホルモン剤どうしの比較
一次解析に含まれた研究のなかで、生児出産率を報告したものはなかった。
- ジドロゲステロンはおそらく、メドロキシプロゲステロン酢酸エステルや微粉化プロゲステロンと比べて、採卵の中止率が低い。
- メドロキシプロゲステロン酢酸エステルは、微粉化プロゲステロン100mgと比べて、採卵の中止率がわずかに低いことが示唆された。
- メドロキシプロゲステロン酢酸エステル10mgはおそらく、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mgと比べて、採卵の中止率が低い。
その他の有害作用に関するデータはなかった。
エビデンスとして分かったことは以下の通りである:
- メドロキシプロゲステロン酢酸エステル10mg投与後の採卵中止の可能性を5%とすると、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mg投与後の採卵中止の可能性は5~22%である;
- 微粉化プロゲステロン100mg投与後の採卵中止の可能性を17%とすると、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mg投与後の採卵中止の可能性は8~24%である;
- ジドロゲステロン20mg投与後の採卵中止の可能性を7%とすると、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル10mg投与後の採卵中止の可能性は6~17%である;
- ジドロゲステロン20mg投与後の採卵中止の可能性を12%とすると、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mg投与後の採卵中止の可能性は8~24%である;
- ジドロゲステロン20mg投与後の採卵中止の可能性を11%とすると、微紛化プロゲステロン100mg投与後の採卵中止の可能性は10~24%である。
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル10mgとジドロゲステロン20mgの間には、臨床的に確認された妊娠の確率や流産率にほとんど差はないと思われる。
MⅡ期の卵子の数やゴナドトロピンの投与量には、ほとんど差がないかもしれない。
その他の中等度以上の望ましくない事象に関するエビデンスは、すべての比較において報告が乏しく、結論が出ていない。
エビデンスの限界
どの黄体ホルモン剤とGnRH拮抗薬やGnRH作動薬を比べても、生児を出産できる可能性が変わるかどうかについては、まだ不明な点が多い。しかし、黄体ホルモン剤は、GnRH拮抗薬と比べて、採卵を中止する確率にほとんど差がないかもしれない。また、GnRH作動薬と比べて、採卵を中止する確率が増えるかもしれない。黄体ホルモン剤の中では、ジドロゲステロンが、他の黄体ホルモン剤と比べて、採卵を中止する確率が低いかもしれない。メドロキシプロゲステロン酢酸エステル10mgは、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル4mgや微粉化プロゲステロンよりも優れているかもしれない。エビデンスの確実性は低いと評価された。その理由は、ほとんどの比較に研究が1件しか含まれておらず、その研究に参加した女性の数が少なく、意味のある結果を出すのに不十分だからである。したがって、得られた結果は慎重に扱われる必要があり、結果を確かなものにするためにはさらなる研究が必要である。
《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2025.04.12]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013827.pub2》