ニルマトレルビルとリトナビルの併用は新型コロナウイルス感染症の治療または予防に有効か

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要点

ニルマトレルビルとリトナビルの併用(販売名パキロビッド®パック、2種類の錠剤1日分が1枚のシートになっているパック製剤)は、2019年に始まった新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の治療として評価されている。

ニルマトレルビルとリトナビルの併用は、投与後28日以内の入院の必要性または死亡により評価した場合、患者の状態を改善し、死亡率を減少させる可能性がある。

データは、ワクチンの接種をしておらず、疾患の進行リスクが高い患者で、症状発現後5日以内に治療が開始された患者のデータしかなかった。

検索の結果、進行中の研究が8件見つかった。今後、毎月検索結果を更新していく予定である。

ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®)について

ニルマトレルビルとリトナビルの併用(パキロビッド®)は、SARS-CoV-2ウイルスによる感染症(COVID‐19)を治療するために開発された新しい薬であり、無症状または軽症の患者が重症化するのを防ぐことを目的としている。リトナビルはニルマトレルビルの効果を高めるが、他の多くの薬剤と相互作用を起こし、副作用を増加させる可能性がある。

知りたかったこと

ニルマトレルビルとリトナビルの併用がCOVID-19患者の死亡率や症状、感染期間を減少させるかどうか、あるいはCOVID-19の予防に役立つかどうかを知りたいと考えた。そこで、この併用治療薬を使用した場合を、プラセボ(偽薬)、無治療、通常のケアまたは他の治療を使用した場合と比較した研究を検索した。また、公平性の観点から、ニルマトレルビルとリトナビルの併用が最も効果的である集団またはあまり効果的ではない集団があるかどうかを知りたいと考えた。そこで、高齢者、併存疾患を抱え社会的に不利な立場にある人々、低所得国や低中所得国の人々、さまざまな民族や人種的背景を持つ人々について検討した。

COVID-19患者に対するニルマトレルビルとリトナビルの併用の効果を、以下の項目について評価した。

– 死亡率

– COVID-19の症状が改善したかどうか

– 生活の質(QOL)

– 薬剤の望ましくない作用

– ウイルスの排泄

予防については、SARS-CoV-2ウイルスへの感染およびCOVID-19の発症に対する予防効果について検索した。

実施したこと
ヒトにおけるCOVID-19の発症予防または治療を目的として、ニルマトレルビルとリトナビルの併用を検討したランダム化比較試験を検索した。治療としてニルマトレルビルとリトナビルを併用する患者は、臨床検査を用いてCOVID-19と診断され、入院または外来で治療を受けていることを条件とした。また感染予防のためのニルマトレルビルとリトナビルの併用は、感染リスクが高いか、感染が確認されたCOVID-19患者との濃厚接触が認められた場合に限られた。

研究結果を比較および要約して、エビデンスにどの程度再現性があり信頼できるのかについて共通の判断基準に基づいて、本エビデンスの確実性を評価した。

効果の全評価項目について、年齢層、併存疾患の程度、世界銀行による所得水準に応じた国別分類に基づく国および人種の観点から差があるかどうかを検討した。

わかったこと

外来でのCOVID-19の治療として、ニルマトレルビルとリトナビルの併用をプラセボと比較した、参加者2,246人の研究1件が見つかった。参加対象者は、ワクチンを接種していない、過去にSARS-CoV-2感染が確認されていない、治療開始前5日以内に症状が発現した、併存疾患や喫煙などの危険因子により重症化するリスクが高い、という選択基準を満たしていた。

さらに、まだ終了していない進行中の研究も8件見つかった。

主な結果

COVID-19の外来患者に対する治療

ワクチン未接種かつ高リスクの患者という特定の集団に対して、ニルマトレルビルとリトナビルを併用することにより、以下の可能性がある。

- 死亡者数の減少につながる

- 治療後28日以内の入院の必要性または死亡で評価した患者の状態が改善する

- 重篤な有害事象が減少する

ワクチン未接種かつ高リスクの患者という特定の集団に対して、ニルマトレルビルとリトナビルを併用することにより、以下の可能性が高い。

- あらゆる有害な事象(薬剤と因果関係がないものを含む)の発生件数にはほとんど影響がない

- 薬剤投与に起因する有害な事象(主に味覚障害および下痢)が増加する

- 有害な事象による治験薬の投与中止が減少する

公平性の観点からの結果

ほとんどの試験参加者が65歳未満の白人であり、中高所得国または高所得国の出身であった。若年者と高齢者の間では効果に差はみられなかった。人種に関係なく効果が認められ、白人では特に明らかであったが、他の人種は試験参加者数が少なかった。併存疾患の数および世界銀行の所得水準による国別分類に基づいたサブグループの報告はなかった。

その他の評価項目に関してもサブグループの報告はなかった。

エビデンスの限界

このレビューには1件の研究しか含めることができず、また死亡や重篤な有害事象などの発生が稀であったことから、エビデンスに対する信頼性は、低~中等度と判定された。この研究には、QOLや症状の消失など検討対象とした項目全部に関する報告がなかっただけでなく、重度のCOVID-19に進行するリスクが高く、ワクチンを接種していないという特殊な患者集団が対象とされていた。

本レビューの更新状況

本エビデンスは2022年7月11日現在のものである。

本レビューでは、リビングシステマティックレビューの手法にしたがって、毎月検索結果を更新していく予定である。また、検索結果や新たな関連研究について公開を行っている。

訳注: 

《実施組織》小泉 悠、ギボンズ 京子 翻訳[2022.10.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015395.pub2》