小児における呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症重症化予防のためのパリビズマブの使用

レビューの論点

小児の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)重症化予防のためのパリビズマブの効果(利益と有害性)は何か?

背景

RSV(訳注:日本ではRSウイルスと表記されることが多い)は、主に生後1年以内の小児における急性呼吸器感染症の主な原因であり、年間3,310万件の感染があり、その90.6%が低・中所得国で発生していると推定されている。これらの感染症は、鼻水、発熱、咳、息切れ、喘鳴、哺乳困難などの症状を呈する。特に生後2か月未満の乳児では、入院や集中治療室への入院、死亡に至ることもあり、全世界の5歳未満の小児における入院率は人口10万人あたり1,970人、死亡者数は年間59,600人と推定される。また、喘鳴の再発や慢性的な肺疾患など、長期的な合併症を引き起こす可能性もある。

シナジスの製品名で販売されているパリビズマブは、重症化するリスクの高い小児において、1か月ごとに最大5回まで筋肉注射を行い、重症化を予防する薬剤である。

検索日

エビデンスは2021年10月14日までのものである。

研究の特徴

3,343人の参加者を含む5件の研究を組み込んだ。どの研究も、早産や心臓・肺の病気など、基礎疾患によりRSVに感染した場合に有害な結果(評価項目)をもたらすリスクの高い子どもたちを含む、少数の参加者を対象としている。

研究の資金源

ほとんどの研究では資金提供元について報告されていなかった。ある研究は、アボット・ラボラトリーズとオランダ保健研究開発機構から資金提供を受けている。

主な結果

パリビズマブはRSV感染による入院を56%減少させた。プラセボ群では1,000人あたり98人の患者がいたのに対し、パリビズマブ群では1,000人あたり43人 に相当する。パリビズマブはおそらく死亡率にほとんど差がなく、有害事象にもほとんど差がない。プラセボ群では1,000人あたり23人が死亡、1,000人あたり84人が有害事象とされたのに対し、パリビズマブ群では1,000人あたり16人が死亡 、1,000人あたり81人が有害事象 に相当する。パリビズマブはおそらく、呼吸器疾患による入院を22%わずかに減少させるが、入院期間にはほとんど差がない可能性がある。2年間のフォローアップでRSV感染率を67%減少させる可能性がある。また、パリビズマブは喘鳴の続く日数を61%減少させるが、酸素使用日数、集中治療室滞在期間、機械換気日数にはほとんど差がない可能性がある。

エビデンスの確実性

エビデンスの確実性は、全体的に中等度から高度であった。

訳注: 

《実施組織》小林絵里子 阪野正大 翻訳[2022.05.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013757.pub2》

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