D-サイクロセリンは自閉症スペクトラム障害患者の社会性・コミュニケーション能力障害に有効で安全か?

本ビューの目的

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、脳の異常な発達を伴う比較的一般的な障害である。多くの場合、反復的な行動、制限的な活動、限られた興味、社会的機能の低下、言語能力の低下につながる。ASDのこれらの特徴に対して有効な治療法はないが、最近の研究では、D-サイクロセリンがASDの人の社会性やコミュニケーション能力を向上させる可能性があることが示唆されている。D-サイクロセリンは、結核(通常は肺に感染する伝染性の感染症)や統合失調症(思考、感情、行動の重篤な精神障害)の治療に用いられる薬の一種である。我々は、ASD患者を対象に、D-サイクロセリンを単独または他の治療法と併用した場合、プラセボ(ダミー薬)と比較して、社会性やコミュニケーション能力の改善効果が良いのか悪いのかを知りたいと考えていた。また、この薬を使用したことによる有害な副作用があるかどうかも知りたいと考えた。

要点

ASD患者の社会性およびコミュニケーション能力については、D-サイクロセリン+社会技能訓練と社会技能訓練のみの間に明確な差はないようである。しかし、これらの結果については不確かな点がある。

本レビューからわかったこと

科学研究のデータベースを検索したところ、このレビューに関連する研究が1件見つかった。この研究はアメリカで行われたもので、企業からの資金提供はなかった。5歳児から11歳児までの計67名が対象となった。一方のグループはD-サイクロセリンを週1回服用して合わせてソーシャル・スキル・トレーニングを行い、もう一方のグループはプラセボ薬(薬が入っていないダミーの薬)と合わせてソーシャル・スキル・トレーニングを行った。治療は10週間続いた。

本ビューの主な結果

治療の1週間後には、D-サイクロセリン群とプラセボ群の間で、社会的相互作用、反復行動、言語能力に差は見られなかった。プラセボ治療と比較して、D-サイクロセリンは有害な副作用、脱落者数、治療反応性を増加させない可能性がある。

D-サイクロセリンは、ASDを有する患者の社会性およびコミュニケーション能力の障害に対して、ほとんど、あるいは全く違いがないかもしれない。これらの知見は、より多くの研究が含まれるようになれば変化する可能性がある。D-サイクロセリンは試験期間が短いため、長期的な効果はわからない。

本レビューの更新状況

レビュー執筆者は、2020年11月までに発表された研究を検索した。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、冨成麻帆 翻訳[2021.03.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013457.pub2》

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