経管栄養中の胃の容量の定期的な測定

レビューの論点

経管栄養中に、定期的に胃の容量を測定する必要はあるのか?その場合、どのような方法で量をモニターすればいいのか?どのくらいの頻度でモニタリングを行う必要があるのか?どのくらいの量であれば安全といえるのか?

背景

急性疾患の人は、いくつかの理由(意識不明、人工呼吸の必要性など)で食事を摂ることができない場合がある。このような人たちに十分なエネルギーと栄養素を供給するためには、鼻から胃に達する柔軟なチューブを使って、濃厚な栄養素を液状にして投与する経管栄養が一般的である。現在、経管栄養は重症の急性疾患患者の第一選択の治療法として推奨されている。これは、このような手法を用いることで、栄養面だけでなく、非栄養面(急性疾患による免疫系の抑制からの保護など)でもメリットが得られるためである。

しかし、急性疾患の患者は、胃や腸の機能が低下していることが多く、胃の内容物を空にすることができない。液体の栄養剤をチューブで胃に送り込む量が増えると、逆流(内容物が食道を逆流すること)や嘔吐の原因となり、誤嚥性肺炎(内容物が肺や肺につながる気道に吸い込まれること)を引き起こす可能性がある。

このような経管栄養の合併症を避けるためには、胃から排出された液体内容物の量である胃残量(GRV)を定期的にモニターするという方法がある。そして、量に応じて経管栄養の速度を調整することができる。

胃残量(GRV)のモニタリングは、経管栄養の合併症を最小限に抑える可能性があり、この手法は数十年にわたって多くの集中治療室(ICU)で推奨されてきたが、普遍的なアプローチを支持するには十分なデータがない。いくつかの研究結果では、胃残量(GRV)のモニタリングは経管栄養の合併症に影響を及ぼさないことが示されている。さらに、この技術は栄養の供給量を減少させ、経管栄養の全体的な治療目標に影響を及ぼすことが示された。

このレビューは、以下の疑問に答えることを目的とした。胃残量(GRV)のモニターは有効で安全か?胃残量(GRV)のモニタリングにはどのような方法が適しているのか(1日にどのくらいの頻度で胃残量(GRV)を測定すべきか、胃残量(GRV)の閾値はどのくらい大きく設定すべきか)?

主な結果

2021年5月3日までに発表されたエビデンスを対象とした。その結果、1,585人の成人を対象とした8件の研究から得られた知見が含まれ、そのほとんどが男性(男性1,019人対女性506人)で、平均年齢は60~69歳であった。すべての研究はICU(集中治療室)で行われ、多くの人が重症で、48時間以上の人工換気と経管栄養を必要とした。研究期間は3日から90日の間であった。

2件の研究(417人の参加者)では、胃残量(GRV)モニターの頻度を少なくした場合と、頻度を多くした場合を比較した。2件の研究(500人の参加者)では、胃残量(GRV)モニタリングを行わない場合と、頻繁にモニタリングを行う場合とを比較した。1件の試験(329人の参加者)では、吸引時に高い閾値を設定した場合と低い閾値を設定した場合を比較し、胃残量(GRV)の閾値の効果を評価した。2件の研究(140人の参加者)では、吸引・排液したGRVを戻す方法と廃棄する方法を比較した。

死亡率、肺炎、嘔吐、入院期間に対する胃残量(GRV)のモニタリング(低頻度と高頻度、モニタリングなしと高頻度)については、エビデンスが不明確であることがわかった。

エビデンスの信頼性

対象となった8件の研究のうち5件は、死亡率を転帰の指標として評価していた。ほとんどの研究は、データが乏しく、解釈が難しいものであった。そのため、今回のレビューの結果に対して、含まれているエビデンスの全体的な信頼性は非常に低く、今回の結果は慎重に取り扱われるべきである。

訳注: 

《実施組織》 堺琴美、冨成麻帆 翻訳 [2021.10.21] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013335.pub2》

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