慢性静脈不全に対する水療法

要点

- バルネオセラピー(水療法)は、何もしない場合と比較して、慢性静脈不全(血液が心臓にうまく戻らず、足に溜まってしまう状態)の人で、おそらく病気の重症度が少し改善し、痛みや皮膚の色の変化も改善する可能性がある。

- 水療法は無治療と比較して生活の質(QOL)を改善する可能性があるが、その結果については非常に不確かなものである。副作用、下腿潰瘍、浮腫(脚の腫れ)に差があることを示すエビデンスはほとんど見つからなかった。

- 水療法を他の治療法と比較したエビデンスは非常に限られている。フレボトニック(毛細血管脆弱性を軽減し、静脈不全における微小循環を改善する薬剤)と呼ばれる薬との比較では、痛みや浮腫を感じる人の数に差があることを示すエビデンスは見つからなかった。乾燥地での運動と比較して、水療法はQOLと浮腫を若干改善する可能性があるが、QOLに関しては非常に不確かなエビデンスである。

慢性静脈不全とは?

慢性静脈不全は、下肢静脈に血液が異常に運ばれ、静脈が心臓に十分な血液を送り返すことができないために起こる病気である。この症状の人は、静脈がこぶのように肥大していることが多い。多くの症状が考えられる中で、最も深刻なのは静脈性潰瘍である。

慢性静脈不全はどのように治療するのか?

慢性静脈不全の治療法には、圧迫(力を加えること)、理学療法、薬物療法、手術など、さまざまな方法がある。水療法は、慢性静脈不全の人に理学療法を提供する方法の一つである。水療法は、水を使った伝統的な医療技術で、通常スパで行われているものである。温泉水やミネラルウォーター、ミネラルを含んだ泥などに浸して使用する。運動が含まれている場合と含まれていない場合がある。

知りたかったこと

慢性静脈不全の患者に対して、水療法が通常のケアや他の治療よりも有益であるかどうかを調べたいと考えた。

本レビューで実施したこと

慢性静脈不全の人を対象に、水療法を無治療または他の治療法と比較検討した研究を検索した。研究結果を比較・要約し、研究方法や規模などの要素から、エビデンス(科学的根拠)に対する信頼性を評価した。

わかったこと

9件のランダム化比較試験(RCT)を特定した。ランダム化比較試験では、参加者は無作為に治療群に割り当てられる。その結果、これらの試験は通常、治療効果について最も信頼できるエビデンスを提供する。7件の研究では、水療法と無治療を比較し、1件の研究では、水療法と メリロタス・オフィシナリスという 薬を比較し、 別の1件の研究では 水療法と乾燥地での運動とを比較した。これらの研究では、異なるタイプの水療法と異なる治療期間が使用された。

主な結果

無治療と比較して、水療法はおそらく病気の重症度をわずかに改善し、痛みや皮膚の色の変化を改善する可能性がある。- 水療法は無治療と比較してQOLを改善する可能性があるが、その結果については非常に不確かなものである。水療法は、有害事象(感染症や下肢の血栓)の発生にほとんど影響を与えない場合がある。重篤な有害事象を報告した研究はない。水療法を受けた人と受けなかった人の間で、下腿潰瘍や浮腫(体の細い血管から体液が漏れ出すことで起こる腫れ)にほとんど差がないことがわかった。

メリロタス・オフィシナリスと 比較した水療法が、痛みや浮腫に効果があるかどうかはわからない。その他、関心のあるアウトカム(疾患の重症度、QOL、有害事象、下腿潰瘍、皮膚の色の変化)についての情報はなかった。

水療法は乾燥地での運動と比較して、5回のセッションでQOLと浮腫をわずかに改善する可能性があるが、QOLの結果については不明である。その他、関心のあるアウトカム(疾患の重症度、有害事象、痛み、下腿潰瘍、皮膚の色の変化)についての情報はなかった。

エビデンスの限界は?

疾患の重症度に関するエビデンスについては、参加者や医療従事者が各自がどの治療群に属しているかを知ることが懸念されるため(盲検化の欠如)、中等度の信頼性を有している。残りのエビデンスについては、盲検化の欠如に関する懸念、頑健な解析を行うには人数や事象数が少なすぎること、参加者自身がいくつかの結果を報告していることから、ほとんど、あるいは非常に信頼性が低い。

本レビューの更新状況

これは、以前のコクランレビューの更新版である。エビデンスは、2022年6月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、小林絵里子 翻訳[2023.02.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013085.pub3》

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