集中治療室(ICU)での治療を受けている患者を除く、せん妄状態にある成人を治療に用いるベンゾジアゼピンの使用(ICU)

背景せん妄は、多くの疾患で起こる重篤な合併症であり、幼児および高齢者に最も一般的に起こる。通常、患者の行動や精神状態に突発的変化として現れる。せん妄の別名称は「急性混乱状態」である。 せん妄の患者は、自分自身がどこにいるのか、今が何時なのか、何が起こっているのか分からないかもしれない。生き生きとした幻覚のような恐ろしい経験をしているかもしれない。彼らは落ち着きがないか、無気力で活気がない状態になる可能性がある。せん妄は、患者とケアをしている人双方に大変な苦痛を与えることがある。研究結果は、一般病棟に入院している患者の約3分の1がせん妄を発症することを示している。せん妄は、手術後に頻繁に起こる合併症である(例えば、股関節骨折手術を受けた人に最大60%で起こる)。せん妄の影響は、長く続く可能性がある。高齢者にとっては、入院期間が長くなり、死亡、障害、独立性の喪失、のちの認知症のリスクの増加にも関連している。また、医療費を有意に増大させる。

ベンゾジアゼピンは、鎮静剤としてよく使用される薬である。他のせん妄治療法で効果がない場合に、医療従事者がベンゾジアゼピンを処方することがある。現在、ベンゾジアゼピンがせん妄患者にとって効果的な治療法であるかどうか、またはベンゾジアゼピンがせん妄患者に害を与えるかどうかは明らかではない。

レビューの論点患者はせん妄治療に、より多く、より良い選択肢を必要とする。ベンゾジアゼピンが、ICUを除く医療現場でせん妄の有効な治療の選択肢であるかどうかを探求した(ICUの患者は重篤な状態であり、異なる種類の治療を必要とする可能性があるかもしれない)。最良の答えを見つけるために、研究者がベンゾジアゼピンを他の薬物、または有効成分を含まない偽薬(プラセボ)と比較する研究を探索した。研究の比較を公平にするために、試験に参加した患者全員が、ベンゾジアゼピンまたは他の治療を受ける確率が同じでなくてはならない(例えばコイン投げのように)。

検索期間2019年4月10日までの医学論文を検索した。

研究の特性レビューに含めるのに適した2報の小規模臨床試験のみを特定した。1件目の研究では、対象となった58人の患者全員が進行癌を有していた。彼らは専門の緩和ケアユニットで治療を受けた。この研究では、ロラゼパム(ベンゾジアゼピンのひとつ)をプラセボと比較した。2件目の研究では、30人の患者全員がエイズ(後天性免疫不全症候群)を有していた。彼らは一般病棟で治療を受けた。この研究は、せん妄の治療に時折使用される2つの異なる薬物とロラゼパムを比較した。

主な結果これらの2件の臨床試験では、他の治療法の代わりにロラゼパムを内服した患者に重要なメリットは見出せなかった。ロラゼパムを内服した患者は、より良い結果ではなかった。ロラゼパムが他の治療よりも有害であったという明確なエビデンスはないが、エイズ患者の研究では、ロラゼパムを服用した最初の6人が深刻な副作用を持った後、研究者はロラゼパムを内服した患者の治療を中止した。このレビューに適切な研究は2件のみであり、両研究とも患者数が少数であったため、確固たる結論を出すことはできなかった。現在、せん妄患者の治療にベンゾジアゼピンを使用すべきかどうか教えてくれる良いエビデンスはない。医師、患者、ケア提供者はエビデンスが不足であることを認識する必要がある。一般治療および特に多くのせん妄が治療される外科治療において高齢患者を含めたより多くの研究の必要性がある。

訳注: 

《実施組織》冨成麻帆、小林絵里子 翻訳[2020.03.26] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012670.pub2》

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