本レビューの目的
このコクランによる質的エビデンスの統合は、女性や医療従事者の出産前ケアに対する見方や経験について調査することを目的としている。この疑問に答えるために、関連するすべての質的研究を集めて分析した結果、85件の研究を含めることにした。
エビデンスの統合は、出産前ケアの様々なモデルの効果について検討したコクランレビューとリンクさせた。また、前向きな妊娠体験のための国際保健機構(WHO)によるガイドラインへの情報提供を目的としてデザインされた。
重要なメッセージ
出産全ケアには、世界中どこの女性と医療提供者であっても、双方にとって重要な点が3つある。ケアが提供される社会文化的背景を認識し、考慮する必要性、およびサービスの設計と提供が適切で、アクセスしやすく、受け入れられるものであり、かつ高品質であることを保証する必要性である。また、女性とスタッフにとって重要なのは、個別化された支持的なケア、情報、安全である。
本レビューの検討内容
出産前ケアとは、女性が妊娠中に受ける医療ケアである。出産前ケアを受けると、妊娠中の女性には支援や安心、妊娠と出産に関する情報、および彼らと自分の赤ちゃんが健康かどうかを確認するための検査や診察が提供される。もし何らかの問題が見つかった場合、医療機関で管理することが可能である。必要であれば、女性を他の医療提供者に紹介することができる。出産前ケアは、異なる職種のヘルスケア従事者が提供することができる。これらの職種には、助産師、医師、看護師、そして時には伝統的な分娩立ち合い者が含まれる。
世界保健機関(WHO)は、すべての妊娠中の女性が出産前ケアを受けることを推奨しているが、出産前ケアを受けていない妊婦もいる。その理由は、妊娠中の女性が出産前ケアを重要だと思っていないからであったり、医療機関を受診できないからであったりするかもしれない。あるいは、女性が受ける出産前ケアの質がよくないから、または、ケアを受ける際の扱いがひどかったからかもしれない。女性と医療従事者の出産前ケアに関する見解と経験の調査を検討することで、女性が出産前ケアを受けるのに役立つ可能性のあるものと、出産前ケアを受けなくさせる可能性のあるものについてさらに知見を深めることを目指した。
本レビューの主な結果
エビデンスの統合には、85件の研究を含んだ。46件の研究で、妊娠中または最近出産した女性の見解と経験が調査された。17件の研究は、一般人や地域医療従事者を含む医療提供者の見解と経験を調査し、22件の研究では、女性と医療提供者の両方の見解を含んでいた。これらの研究は、高所得国8か国、中所得国18か国、低所得国12か国の、都市部と地方で行われていた。
我々が得た結果は、女性は、そのケアが自分の信念と価値観に適合した前向きな経験であり、アクセスしやすく、手頃な価格であり、個人として扱ってくれる場合に、出産前ケアを使用するということを示唆していた。女性達は、自分と自分の赤ちゃんが安全であると感じるのに役立つケアを望んでいる。また、そのケアが、親切で思いやりがあり、文化にも配慮し、柔軟な対応ができ、そして敬意を持って接してくれるスタッフによって、女性とその赤ちゃんの健康と幸福について支援し安心を与えるのに十分な時間をとって提供されることを望んでいる。また、必要とした際に適時に検査と治療が提供され、それらに関連した情報や助言が得られることを評価している。
我々の調査結果は、医療スタッフも同様のケアを提供できるようになりたいと考えていることを示唆している。彼らは、適切な資金を有した出産前ケア事業で、適切なサポート、賃金、トレーニング、教育を受けられる環境下で働きたいと考えている。彼らは、そのような環境があれば、個々の妊婦を個人として扱うのに十分な時間を持ち、仕事をうまく行うための知識や技術、設備を持つのに役立つと信じている。
本レビューの更新状況
本レビューの著者らは、2019年2月までに出版された研究を検索した。
《実施組織》杉山伸子 小林絵里子 翻訳[2020.4.7]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
《CD012392.pub2》