自閉症スペクトラム障害(ASD)に対するキレーション療法

背景

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的交流およびコミュニケーションの障害ならびに限定的な反復行動が特徴の障害である。有毒金属濃度の増加がASDの症状を悪化させることが示唆されており、医療用キレート剤(血流に注射され、有毒な重金属と結合し体内から除去する ための化学物質)によるこれらの重金属の排泄が症状改善につながる可能性がある。

レビューの論点

本レビューの目的は、ASDの症状に対する医療用キレート剤の効果に関するエビデンスを評価することであった。

試験の特性

ASD症状の治療に医療用キレート剤を検討した試験を同定するため、複数のデータベースを検索した。ASDに対してジメルカプトコハク酸(DMSA)の経口投与を評価した1件のランダム化比較試験のみが同定されたが、この試験では我々の疑問に答えられる理想的な方法を採用していなかった。エビデンスは、2014年11月現在のものである。

同定した試験は2期構成であった。第1期にASDの小児77名をグルタチオンローションまたはプラセボローションの7日間投与にランダムに割り付けた後、DMSAを3日間投与した。第1期で重金属の排泄濃度が高かった小児49名は引き続き第2期に移行し、DMSAまたはプラセボを3日間経口投与した後、11日の休薬期間を設け、これを最大6サイクル反復した。

主な結果

対象試験の結果は、医療用キレート剤を3回投与後に金属排泄量が多かった小児にDMSAを複数サイクル経口投与してもASDの症状に対する効果は認められないことを示している。現時点では医療用キレート剤がASDに有効な介入であることを示唆する臨床試験のエビデンスは得られていない。血中カルシウム濃度の変化、腎不全、死亡などの重篤な有害事象が過去に報告されているため、現時点では立証された有益性よりもASDに医療用キレート剤を使用するリスクの方が大きい。

エビデンスの質

本レビューに組み入れた試験は1件のみで、エビデンスの質は低く、方法論的に不備が認められた。これらの要因を総合すると、結果の信頼性は低い。しかし、今後さらに試験を実施するには、重金属が自閉症の原因となる、または重症度を悪化させることを示すより多くのエビデンスが必要であり、患者に対する医療用キレート剤の安全性を確立しなければならない。

著者の結論: 

本レビューでは、方法論に限界が認められる1試験のみのデータが対象であった。このため、医療用キレート剤の使用がASDに対して有効な介入であることを示唆する臨床試験のエビデンスは得られなかった。過去に低カルシウム血症、腎不全、死亡などの重篤な有害事象の報告があるため、現時点では立証された有益性よりASDにキレート剤を使用するリスクの方が大きい。今後さらに試験を実施するには、重金属と自閉症の因果関係を裏付けるエビデンスおよび参加者の安全が保証された方法が必要である。

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背景: 

自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状の重症度は、血中または貯蔵有毒金属と正の相関関係にあることが示唆されており、医療用キレート剤を用いてこれらの重金属を排泄することで症状が改善する。

目的: 

自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状に対する医療用キレート剤(本レビューではキレーション療法と呼ぶ)の有益性および有害作用を評価すること。

検索戦略: 

2014年11月6日にCENTRAL、Ovid MEDLINE、Ovid MEDLINE In-Process、Embase、PsycINFO、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(CINAHL)および試験レジストリ3件を含む15件のデータベースを検索した。さらに、参考文献一覧を確認し、専門家に問合せを行った。

選択基準: 

ASD患者を対象に医療用キレート剤をプラセボと比較したすべてのランダム化比較試験。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がそれぞれ試験を選択し、バイアスのリスクを評価し、関連データを抽出した。1件の試験のみを組み入れたため、メタアナリシスは実施しなかった。

主な結果: 

9件の試験は、非ランダム化試験であるか、または組み入れ前に試験を中止したため、対象から除いた。2期構成の試験を1件組み入れた。試験の第1期ではASDの小児77名を、グルタチオンローションまたはプラセボローションの7日間投与にランダムに割り付けた後、ジメルカプトコハク酸(DMSA)を3日間経口投与した。第1期に重金属の排泄量が多かった49名の小児は引き続き第2期に移行し、DMSAまたはプラセボを3日間経口投与した後、11日間の休薬期間を設け、これを最大6サイクル繰り返した。したがって第2期では、重金属の排泄量が多く、DMSAを3日間経口投与した小児を対象に複数の用量レベルでDMSAを経口投与し、有効性をプラセボと比較評価した。総じて、DMSAを複数サイクル経口投与した場合、ASDの症状に有効であることを示唆するエビデンスは得られなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.3.14]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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