これまでの治療で良くならなかったうつ病に心理療法は有効だろうか?

レビューの疑問

治療抵抗性うつ病をもつ成人患者に対しての心理療法は有効な治療法だろうか?

背景

うつ病は、よくみられる問題であり、多くの場合抗うつ薬で治療される。しかし、抗うつ薬を服薬しても良くならない患者も多くいる。このような患者は、「治療抵抗性うつ病」と呼ばれることがある。彼らには、服薬している薬の量を増やす、別の薬を追加する、新しい薬に切り替えるなど、複数の異なる治療法を試すことがある。また、心理療法の追加や切り替えも選択肢の一つである。心理療法がうつ病に有効であることはエビデンスで示されている。まだ明らかになっていないことは、「治療抵抗性うつ病」をもつ患者に心理療法が効くかどうかということである。今回のレビューでは、この疑問に答えることを目的とした。

検索日

2017年5月までの研究を検索した。

組み入れられた研究の特徴

このレビューでは、6つの無作為化試験を組み入れた。これらの研究対象者は、無作為に(偶然に)割り当てられ、比較される治療のいずれかを受けた。これらの試験には698人が参加し、3種類の心理療法が試された。全ての研究で、現在の医学的治療に心理療法を加えることがうつ病の改善につながるかどうかを調べた。

研究資金源

全ての研究は、公的研究助成金によって行われた。

主な結果

抗うつ薬を用いた通常のケアに加え、心理療法を受けた患者は、通常のケアのみを継続した患者と比較して、6ヶ月後の抑うつ症状が軽減されており、より多くの人が抑うつ状態がほとんどない状態であった。これらの知見は完全な信頼度があるとは言えない。認知行動療法を追加した場合の真の効果は、今回の発見とは異なる可能性があるが、知見は近いと思われる。また、治療に心理療法を追加することは、通常のケアのみと同様に患者に受け入れられやすいこともわかった。2つの研究では12ヶ月後に、1つの研究では46ヶ月後に同様の効果があることを指摘している。

また、2件の研究では、通常のケアのみを受けた患者には有害な影響が報告されたが(自殺1件、入院2件)、通常のケアに加え心理療法を受けた患者には有害な報告がなされなかった。

エビデンスの質

参加者は自分が受けた治療を認識しており、また、少数の研究しか確認できなかったため、6ヶ月後での所見についてはエビデンスの質が中程度、長期的な結果については質が低いと評価した。今後、より質の高い研究成果が得られれば、この評価は変わる可能性がある

訳注: 

《実施組織》 田村早織 翻訳, 岩永麻衣 監訳 [2022.10.04] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部;cochranereview.ncnpcmhl@gmail.com)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD 010558.pub2》

Tools
Information