妊娠中の禁煙のための薬物治療と電子タバコ

論点

妊娠中の喫煙は、妊婦や胎児にとって有害である。しかし、多くの女性が妊娠中にタバコをやめるのに苦労している。禁煙補助薬は、タバコを吸いたいという欲求の強さを軽減させ、禁煙を試みる人の長期的な成功の可能性を高める。喫煙者である妊婦にこれらの治療法を提供することで、禁煙を助け、自身の健康と胎児の健康の両方に好ましい影響をもたらせる可能性がある。

重要である理由

禁煙を助けるために一般的に使用される薬には、ニコチン代替療法(NRT)、ブプロピオン、バレニクリンなどがある。また、ニコチンを含む電子タバコを、禁煙する目的で使用している喫煙者もいる。しかし、妊婦における禁煙補助薬や電子タバコの安全性や効果については不明である。妊婦に対する禁煙補助薬がどれだけ優れているのか、妊娠中に使用した場合の安全性はどうなのかを調査した。

得られたエビデンス

2019年5月20日にエビデンスを検索したところ、合計2412人の女性が登録された11件のランダム化試験(ランダム法を用いて2つ以上の治療群のいずれかに参加者が割り付けられている試験)を確認した。9件の研究では禁煙のためのカウンセリングと並行してNRTが用いられ、他の2件の研究ではブプロピオンが試験された。

質の低いエビデンスによると、NRTと行動支援を組み合わせることで、行動支援のみの場合よりも妊娠後期の女性の禁煙に役立つ可能性があることを示唆している。薬物療法の臨床試験では、プラセボ、つまり錠剤やパッチのように見えて実際には薬効成分が含まれていないものを使用することが多く、この方法をとると各比較群が同等の成功を期待することができ、薬そのものの効果をより公平に検証することができる。より質の高いプラセボを対照とした試験だけを分析したところ、NRTの方がプラセボNRTよりも効果的であることが示唆された。ニコチンパッチや速効性NRT(ガムやトローチ剤など)のどちらか一方がより効果的であるという証拠は得られなかった。

質の低いエビデンスによると、妊娠後期の女性の禁煙を助けるのに、ブプロピオンはプラセボ以上の効果がないことが示唆された。他の禁煙補助薬や電子タバコを検討した試験は確認できなかった。

NRTが流産、死産、早産(37週未満)、平均出生体重、低出生体重(2500g未満)、新生児集中治療室への入院率、または新生児死亡率にプラスまたはマイナスの影響を与えるかどうかを結論づけるには、エビデンスが不十分であった。しかしながら、出生児を2歳まで追跡調査したある試験では、NRTに無作為に割り付けられた女性から生まれた乳児の方が健康な発育をしている可能性が高かった。同様に、ブプロピオンが出生時の転帰にプラスあるいはマイナスの影響を与えたのかは不明である。

女性が指示通りに禁煙補助薬を使用したかどうかを調べた研究では、一般的に使用量は少なく、大多数の女性は与えられたNRTをほとんど使用していなかったことが判明した。

結果が意味すること

より多くの研究エビデンスが必要であり、特にNRTの高用量投与を試験し、女性に十分な薬の使用を促し、出生児を小児期まで追跡調査するプラセボを対照とした比較試験が必要である。さらに、ブプロピオン、電子タバコ、バレニクリンの妊娠中の禁煙に対する効果と安全性については、より多くの研究が必要である。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子 星佳芳 翻訳[2020.6.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010078.pub3》

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