冠動脈疾患に対する心理療法

冠動脈疾患(coronary heart disease:CHD;心臓に血液を供給する動脈の狭窄)に対し、通常の治療のみを行った群と比較して、通常の治療に心理療法を追加した場合の効果を評価するためのエビデンスについてレビューした。死亡率(何らかの原因、もしくは心血管関連の)、心臓発作、血行再建術 (心臓周囲の血流を取り戻す手術)の必要性、抑うつ、不安、ストレスの程度に関する結果を抽出した。

背景

心臓発作と心臓手術は恐ろしく、外傷体験を伴い、精神的問題を経験する患者もいる。いくつかの心理的特性は心臓疾患の進行に関連している。抑うつ、不安、ストレスに対する心理療法はそれ単独、もしくはリハビリテーションプログラムの一部として提供されることもある。冠動脈疾患の患者が通常の治療に加えて心理療法を受けると、利益があるのか検討した。最低6ヶ月以上の経過観察を行った試験のみを選んだ。

検索結果

このレビューは第3版となるアップデート版である(以前のバージョンは2004年版と2011年版)。2016年4月までのエビデンスをまとめた。

研究の特徴

35件のランダム化比較試験(患者をランダムに2群もしくはそれ以上の治療群に振り分ける臨床試験)をレビューに含め、総患者数は10,703名にのぼった。多くの参加者は男性で(77%)、最近心臓発作を起こした、もしくは血行再建術を受けていた。経過観察期間は、6ヶ月から10.7年間で、最頻値は12ヶ月だった。ベースライン(試験開始時)では、10件の試験で精神的な症状が明らかな(多くは抑うつ状態)冠動脈疾患患者のみを集めており、11件の試験では様々な程度の精神症状のある患者を集め、3つの試験では精神症状のある患者は除外し、11件の試験では精神状態について報告していなかった。

研究の資金提供元

13件の試験では資金提供元について報告していなかった。7件の試験は政府の補助金で、6つの試験は慈善団体から、6件の試験は政府と慈善団体両方から資金提供を受けていた。2件の試験は政府と慈善団体に加え、民間企業からも資金提供を受けており、1件の試験は大学から資金を得ていた。

主な結果

心理的介入は死亡率(いかなる原因でも)もしくは心臓手術、その他の心臓発作のリスクを減少させなかった。心理的介入は心血管死亡のリスクを減少させ、試験参加者が訴える抑うつ、不安、ストレスの症状を減少させた。

エビデンスの質

多くの評価でエビデンスの質は「低度」(心血管系死亡率、非致死的心臓発作、抑うつ、不安に関して)、もしくは「非常に低」(ストレスに関して)であり、かなり不確かな効果しか認められなかった。ただし、死亡率(いかなる原因でも)もしくは心臓手術に関する効果についてのエビデンスの質は「中等度」であった。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、小林絵里子 翻訳[2021.10.11]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002902.pub4》

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